(4)初めての邂逅(邂逅?)

(あはは、早く来すぎちゃった)

(焦りすぎです。侯爵家うちの物資もまだ来てないとは)

(お気持ちは、判るんですけどね)


 小声で会話しつつ、兵営内の視察と称して時間潰しを行うクレット一行。

 案内の兵もそれほど見せられるところもなくて困っている。

 この裏では、急ピッチで会場の設営が行われているのであった。


(後で侯爵家にも謝りにいかなくちゃ……とほほ)



 そして1時間後、第六基地の慰安会が始まった。


「クレット・カレン・ニシノハラです。皆様のご活躍により、治安が保たれ、安全な宙間航行が出来ていること。とても感謝しておりますわ。心ばかりではありますけれども、わが一門の本家、チヅカ侯爵家より、差し入れをさせていただきました。皆様、今日は心行くまでお楽しみください。では、乾杯!」


(お、えらくあっさりとしたスピーチだったな?)

(まあ、訳判らんと長々話されるよりいんじゃね?)

(そんなことより腹減った。早く食おうぜ!)


 などと、好評(?)なうちに立食パーティーが始まった。


 まあ、クレットもスピーチしに来たわけではないのだが。


(さて、当たりはいるかしら?)


 部隊長級の挨拶を受け、また一般兵のテーブルを回って軽く談笑しつつ、品定めをしていく。

「まあ、6年も? それは大変だったのですねぇ」(期間はそれなりだけど、戦果はそれほど、と)


「え、あの宙賊(※宇宙海賊の意)の討伐に! それは凄いお働きだったのでは?」(宙賊かぁ、宙賊って雑魚が多いし、吸える魔素もそれほどでもないのよねぇ)


「ええっ、あの星域の宙獣討伐を! 私も聞き及んでおります。とても難戦だったとか」(あのくらいの宙獣だと中型いかないくらいかぁ、無しでもないけど……戦歴も保有魔力も……)


 談笑、という名のヒアリングを試みながら、忙しなくテーブルを回っていく。


(んー、保有魔力だけじゃあ、良く判らないのよねぇ。問題は閾値だし)


 クレットが見定めようとしているもの、それは兵たちがこれまでどれだけ魔素に暴露しているか、その貯蓄の具合なのだが。


 後ろに控える侍女二人は、この場では黙ってクレットに付き従うばかりである。


(騎士級の、しかも女性じゃあ、この方面では頼りになんないしね)


 顔は笑顔を貼り付けつつ、内心は困りながら、時間は刻々と過ぎていった。



 そして、とあるテーブルで談笑しているとき、ふと端の方で我関せずとばかりに壁にもたれかかっている一人の兵士が目に入った。

 何か、本に目を落としつつ、軽食をつまんでいるようだ。


「ああ、あいつですか」

「ええ」

「あいつは『本読み』ってやつでして。普段からあんな感じで。すいません」

「いいえ、それは構いませんのよ?」

「『本読み』っても、別になんかしでかしたことも無いですし(平時では)、悪い奴じゃないんですがね」

「そうなんですの……私、初めて見たものですから。いえ、話だけは聞いたことがありますけれど、本当に種を使わないで紙の本を読んでいるのですね?」

「ええ。あ、『種無し』じゃないですよ?」


 無言で微笑んで視線を『本読み』の男から切り、会話を終わらせるクレット。


(いや、そりゃそうでしょ。『種無し』の軍人とか洒落にもなんないわよ)



 さて、宴たけなわ、となりそうな時間に差し掛かりつつあるとき、それは起こった。


 <ビー! ビー! ビー! ビー!>


 警告音とともに一瞬で静まり返る会場。


『緊急連絡! 緊急連絡! 救援依頼あり! 第二、第六、第九分隊は、持ち場に急行せよ! 繰り返す! 第二……』


 アナウンスが聞こえるや、一部の兵たちの動きが慌ただしくなった。


(あっ?)


 クレットは、さっきの『本読み』が、誰よりも早く駆け出して通路へ消えていくのを見た。


(あの人、魔力量もそこそこだったけど、あの積極性……もしかして?)


「ああ、申し訳ありません。何とも間の悪いことで……」


 基地司令が近づいてきて、クレットに謝罪する。兵士たちの半数は、次々と戻っていく様子だ。

「いえいえ、お仕事ですものね? それより皆さん、ちゃんと召し上がられたかしら?」

「それはもう! シュヴェリーン4産の高級肉をこんなにも! 皆も喜んでおりましたとも!」

「そうですのね。それは良かったわ……ところで、あの『本読み』の方って、お名前はなんと?」

「『本読み』ですか?……えっと」

「レジン・ビークル、レジン・ビークル宙間突撃隊兵曹ですね」


 指令が口ごもると、すかさず副官らしい傍らの男が答えを返した。


「そうですのね」


(年の頃は見た感じ24・5? それで兵曹? しかも突撃隊って、いわゆる『ウロコ乗り』……か)


 クレットは、人知れず口角を上げた。


「お嬢様、ここも忙しくなります。ご帰宅を」

「何言ってるの? 駄目よ」


 侍女役の忠言を、切って捨てると、


「こういう時こそ、普段守られているものとして、お役に立てないでどうするの? 私がいることで皆様の士気向上に僅かでも寄与できるのなら、今こそ同行して、皆様と命を共にすべきじゃないかしら。それに、私はニシノハラ、大王の一の将とうたわれたチヅカ侯爵家の一門よ? こういう時に尻尾を巻いて退散するなど武門の誇りを汚すもの! 同行しますわ!」


 などと、一気にまくし立てた!


 場はしーんとした後、


「いやいやいや、そういうことはですね」

「お嬢様、いきなり何言ってんですか」

「お嬢様、兵事は殿方、政治は淑女、それが貴族の在り方ですよ?」


「いーえ!」


 クレットは、またしてもサラッと軍服に早着替えすると、


「お構いなく!」


 と、高らかに宣言するのだった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月3日 20:18

宇宙時代の出世事情 明智 昌宏 @masa_akechi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画