第3話 琥珀館
馬車は霧に覆われた森の中を進み、やがて見えてきた巨大な影の前に停まった。
レオンが扉を開けて降りた後、次に降りたシャロルがアルマへと手を差し出す。
目の前で困惑する様なぞ見えてないとばかりに、シャロルは手を引っ込めるどころか「お手をどうぞ」と言いながら微笑む。
あまりの衝撃にアルマは眩暈を覚えながら、爪の先まで芸術品かと思うほどに美しい形の手を取って、ゆっくりと馬車を降りた。
薄い霧の向こう側にそびえ立つ館は、黒い槍が並んでいるように見えるデザインの柵に囲まれた中にあり、一般的な貴族の館と比べると、非常にこじんまりとしている……気がした。
あくまで、アルマの中にある勝手なイメージでしかないが、貴族とはもっと大きな屋敷に住んでいるものだと思っていたのだ。
ただ同時に、
「ここが私の屋敷、
息を呑んで屋敷を見上げているアルマを見て、シャロルが「結構、コンパクトだろう?」と笑った。
「使用人が少ないわりに物が多いから、ちょっと掃除とかは大変だろうけど、居心地は良いはずさ」
「シャロル様、お言葉ですが、物が多すぎます。我々が触れられない物も多いのですから、もう少しご自身で整理なさってください」
「うん、ごめんね」
レオンの、仮にも主人であろう相手への口の利き方にギョッとするが、シャロルはカケラも気にした様子を見せずに、しかも気まずそうに視線を逸らしながら謝ってみせる。
それは、貴族というよりもまるで――
「アルマ」
その時、とても懐かしい声が聞こえた。
もう聞けるはずのないその声に、アルマは弾かれたように周囲を見渡す。
突然の行動に、シャロルもレオンもきょとんとした顔でアルマに視線を向ける。
「アルマ、と言ったな。どうかしたのか?」
レオンの問いかけにアルマは目を瞬かせ、そして先ほど聞こえた声を思い返した。
……ありえないことだ。
あの声は、もう二度と聞けるはずのないものだ。失われたものだ。
わかっていたから、アルマは首を横に振った。
波風立たせてしまえば、今後の生活に支障が出るかもしれない。
そんな考えと同時に、現実的ではない、おそらくは錯覚の類であろう事柄で、優しく気さくな彼らを困らせたくなかった。
「なんでもないです。ちょっと、何か聞こえた気がして」
「ああ、もしかしたら獣かな? 最近多いんだよね」
シャロルはアルマの言葉に納得したように頷くと、レオンに視線を向ける。
「レオン、クロウに言っておいてくれ。裏の畑を荒らされないようにね」
「かしこまりました」
シャロルはその返事に、満足したように頷いた。
魔法使いのアトリエ ちゃがま @CF_000
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