第2話 シャロル・フォン・ベネットという男
まだ何事か喚く男は執事の少年によって制止され、その隙にとシャロルによってアルマは馬車の中に案内された。
貴族の、それもこんなにも美しい人に案内されるという経験に、アルマの心臓は恐れ多さと緊張で爆発寸前だ。
外で男と一言二言交わしたシャロルが乗り込んでくると同時に、最後に執事の少年が恭しく礼をして、シャロルの隣に乗り込んで扉を閉める。
御者が馬に合図を出し、馬車がガタゴトと音を立てて動き始めた。
「ありがとう、レオン。助かったよ」
「いえ、仕事ですから」
レオンと呼ばれた執事の少年が一礼すると、茶色の髪が肩から流れてさらりと落ちる。
シャロルはそれに気づくと、落ちたレオンの髪へと手を伸ばして掬い上げた。
ハッとしたように顔を上げるレオンに、シャロルは笑いかける。
「うん、随分と髪が伸びたね」
「あ、も、申し訳ありません」
「ああ、いやいや。身だしなみがなってないとかじゃなくてね」
シャロルは咎められたと思って慌てている自らの執事の様子に、クスクスと笑ってみせた。
子どものようなその横顔も美しくて、アルマは思わず見惚れてしまう。
「そうだ! 帰ったら東の国から取り寄せたクミヒモというのをあげよう! 私は髪が短いが、レオンならばそれなりに髪も長いから似合うだろうし」
「シャロル様、ことあるごとに使用人に貴重な品を下賜するのはおやめくださいと、あれほど……!」
「いいじゃないか。キミもアルベルトも頭が硬くて困るね。私は作品という存在は、その品が作られた目的を果たしてこそ輝く物だと思うんだ」
ポンポンと繰り広げられる会話に頭がついていかない。
アルマは目を瞬かせ、繰り広げられる光景をどう受け止めるべきか悩んでいた。
「おっと、アルマがすっかり置いてけぼりだ。すまないね」
「い、いえ、その……」
「ああ、一般的な貴族のイメージと違うと思ってるのかな?」
「それは……はい……」
そんなことはないと否定しようとしたが、こちらを見透かしてくるような琥珀の瞳に諦めて頷く。
目の前で戸惑っている少年に、シャロルは何が楽しいのかクスクスと笑って答えてみせた。
「ふふ、それは普通の感覚だよ。なにせ、私は他の貴族たちからも声を大にして『変わり者の芸術伯』『王国一の放蕩貴族』などと呼ばれているからね」
「それは自慢げに話されることではありませんよ、シャロル様」
「おっと、これは失礼」
慣れたようにウィンクして見せるシャロルに、レオンが呆れたような視線を向けてピシャリと言い放つ。
年若くも生真面目なのだとわかる執事に注意を受けて、シャロルは肩をすくめた。
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