何気ない口癖や生活音といった、ごく身近な描写から始まりながら、少しずつ空気が変わっていく構成が印象的でした。二人の距離は確かに近いのに、どこか噛み合わない感覚が終始漂っていて、それが日常の温度や身体の感触と並行して描かれている点に、独特のリアリティを感じました。感情を直接語らず、行動や配置で語っているため、読み手それぞれの受け取り方が自然に生まれるように思います。ささやかな生活の描写の中に、大きな転換点を忍ばせた素敵な一篇でした。
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