3 木こり、金の斧で無双する

「ああ、あなたはなんて正直者なのでしょう。その誠実さの褒美として、斧は三本とも差し上げます」


 金の斧と銀の斧は、誰かの落とし物ではなかったらしい。女神様からの褒美の品なら、受け取ってしまっても構わない、いやむしろ受け取らないと失礼ではないか。ゆっくりと飛んでくる三本の斧に、俺はおずおずと手を差し出した。


 信徒の願いを叶え終えたからだろう。女神様は泉の中へと戻っていく。


 俺は慌てて三本の斧を腰の収納袋アイテムボックスにしまう。斧を持っていたら、手を組むことができないからだ。


「ありがとうございます、女神様」


 せめてものお礼として、俺はいつもより深く長く祈りを捧げることにする。


 しかし、その気持ちはすぐに吹き飛んでいた。


「うわああああああ」


 森の奥地から、悲鳴が聞こえてきたからである。


 自分も森で困っているところを他人に助けてもらったことがあった。奥地は危険だからといって無視するわけにはいかない。鉄の斧を構えて急いで向かう。


 どうやら俺が警告した通りの事態が起こってしまったようだった。


 女神様の結界がなくなって、泉から先は急激にモンスターが強くなる。そのせいで、『烈勇団』は自分たちBランクよりも格上の相手に遭遇してしまったのだ。


 甲冑のように硬い毛皮と、突撃槍のようにとがった牙。あたかも重装騎士を思わせるようなイノシシ系のモンスターだった。


『烈勇団』のメンバーはすでに半死半生で、ろくに動けない様子である。だからイノシシは、無傷の俺に標的を変えてきた。


 低ランクのイノシシ系モンスターなら以前に出くわしたことがあった。こいつらは走るのが速い代わりに、真っ直ぐにしか進めなかったはずだ。


 ランクが上がっても、イノシシはイノシシということだろう。直前で横に身をかわせば、突進を避けることができた。それどころか、すれ違いざまに、斧を叩き込むことまでできた。


 だが、それだけだった。


「くそったれ!」


 木こりの攻撃を簡単に喰らうくらい動きが単純なのは、それで問題ないほど防御力が高かったかららしい。イノシシの毛皮の鎧に負けて、斧の刃は砕けてしまっていた。


 ああ、せっかく女神様に拾っていただいたのに!


 そう嘆いた拍子に思い出す。他にも斧を下さっていたな、と。


 イノシシはすでに次の突進を始めて、目の前まで迫ってきていた。もうかわすだけの時間の余裕はない。俺は収納袋から別の斧を取り出すと、相手の頭に力いっぱい振り下ろした。


 せめて痛みで少しでも突進の勢いが落ちてくれればいいんだが。そんな俺の願いは叶わなかった。


「嘘だろ……」


 金の斧の一撃によって、イノシシの頭は真っ二つになっていたのだ。

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