2 木こり、女神から金の斧をもらう
木こりが冒険者に嫉妬しているだけ。女神の結界なんてものはない。
その考えを改める気はないらしい。『
だから、俺も伐採の仕事を再開することにした。受け口の逆側から、思いきり斧を振る。――木を『烈勇団』に見立てて。
木こりを馬鹿にされたのは腹が立った。俺だけではなく、俺を育ててくれた親父まで馬鹿にされたようなものだからだ。
ましてや、その木こりを守護してくださっている女神様を笑い者にされたのは、とてもじゃないが我慢ならなかった。
しかし、そんな風によそ事を考えていたのがよくなかった。
手元が狂って、刃が硬い
その上、飛んでいったのは、ちょうど泉の方向だった。
鉄製の斧はあっという間に沈んでいってしまう。
「なんてこった!」
斧を失くしたことは、仕事に集中していなかった自分が悪いと諦めがつく。だが、泉を汚してしまったことは、どう償えばいいだろうか。
直後、底から湧き上がるように、水面に波紋が起こった。
「どうかされたのですか?」
泉の中から現れたはずなのに、女の髪や服は濡れていなかった。それどころか、女は水面から上半身だけを覗かせていた。
こんなことは初めてだが、すぐに彼女がそうなのだと確信した。
「もっ、申し訳ありません、女神様。泉に斧を落としてしまいまして」
「では、
女神様が泉に手をかざす。斧が水中を飛び出て、空中に浮かび上がる。
だが、その斧は見覚えのない輝きを放っていた。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?」
斧ほどの大きさをした金塊なのである。売れば木こりの仕事何十年分という収入になるだろう。
だから、俺はこう答えた。
「いえ、とんでもない」
女神様は誤解しているみたいだが、たぶん俺より前に誰かが落とした物だろう。失くして困っているはずだから、嘘をついて横取りするわけにはいかない。
「では、この銀の斧ですか?」
「まさか、そんな上等なものじゃありません」
銀塊だって十分高価である。やっぱり俺が横取りするわけにはいかない。
「この鉄の斧ですか?」
「そうです。そいつです」
形や大きさ、傷跡…… どれも見慣れたものだった。俺の斧に間違いないだろう。
この返答を聞いて、女神様は微笑を浮かべていた。
「ああ、あなたはなんて正直者なのでしょう。その誠実さの褒美として、斧は三本とも差し上げます」
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