木こりの成り上がり~女神のくれた「金の斧」は「世界一の斧」という意味だった件~

蟹場たらば

1 木こり、冒険者パーティに馬鹿にされる

「アレックスよ、泉の女神様へのお祈りを忘れるなよ」


 それが木こりだった親父の口癖だった。


 遺言にもなったその言葉に従って、俺は森の泉のほとりで手を組む。女神様に昨日までの御加護を感謝し、また今日一日の御加護を祈願する。そのあとで、ようやく斧の柄を握った。


 今日の伐採は、ちょうど泉周辺の木を予定していた。その場ですぐに仕事に取りかかる。


 しかし、受け口(木が倒れる方向を誘導するための切れ込み)を作ったところで、俺は事故防止のために手を止めた。人の話し声が近づいてきていたのだ。


 男女四人の顔に見覚えはなかった。また、先頭の男が持っているのは、斧は斧でも戦斧だった。旅のモンスター討伐者冒険者パーティだろう。


「あんたたちランクは?」


「Bだ」


 先頭のリーダーの男――後日知ったが『烈勇団れつゆうだん』のリアムというらしい――は得意顔で答えた。


 実績に応じて上下するランクは、Gから始まる八段階制である。Bランクであれば、もう上級パーティだと言えるだろう。


「なら、それ以上はやめといた方がいい。この先は泉の女神様の結界がなくなって、急にモンスターが強くなるからな」


 モンスターの生息する危険な森なのに、俺が木こりをやれているのは何故か。それは高ランクのモンスターが奥地から出てこないように、女神様が結界で封じ込めてくださっているおかげだった。


 ただ女神様も全能ではないから、SやAならともかく、Bランク程度なら結界から漏らしてしまうこともある。泉の近くでそういう漏れを待っていた方が、奥地に行くより効率は落ちるが安全だろう。


 だが、『烈勇団』の考えは違うようだった。


「聞いたか? 女神様だってよ」


 リアムは嘲笑を始める。パーティメンバーたちもそれに続く。


 女神様や結界は目に見えるものではない。そのせいで、高ランクのモンスターが奥地から出てこないのを、単なる生態だと捉える人間は少なくなかった。よそ者のリアムたちには実感がないから、尚更そう感じられてしまうんだろう。


「下らねえ嘘をつくんじゃねえよ」


「なんで嘘なんかつく必要があるんだ」


「冒険者に嫉妬してるんだろ? 木こりなんてきついだけで、金にならねえ仕事だもんな」


 もう三十近い俺に比べて、『烈勇団』の面々はまだ二十前後というところである。しかし、仕事道具の斧は、明らかにリアムの方が高価なものを使っていた。


「お前ら木こりが働けるのは、俺たち冒険者がモンスターを倒してやってるからなんだぜ? 立場を理解しろよな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る