別れ

 水晶すいしょうが退学した。遠方の古書店で働くのだ。

 それに伴って今いる下宿を引き払うことにして、一年に及ぶ同居が終わった。

 水晶の次の入居者は決まっていて、菫青きんせいはその人が来るまで一人だった。

 太陽の光が注がれる部屋の中は、少し前より広々としている。

 借りて読んでいた本や、自分のものではない服が目に入らない。

 話し相手がいないだけで、ここまで静かなものだ。

 つくねんと座っていた菫青は、ふと思い立って窓を開け放つ。

 清々しい風が入ってくる。こんな日は彼の体調も良いだろう。


 下宿を出て最初の夜。水晶は部屋で明日の支度を終えた。

 一息ついて部屋を見渡す。

 狭い部屋ではあるが、酷くがらんとしている。

 当然ながら誰もいない。俺は一人で暮らすのか。

 水晶は突然悲しくなった。そのまま目から涙が零れてしまった。

 静かに泣き続けている。どうすれば止まるのか。

「ちきしょう……なぜだ……」

 ああ、一人で良かった。泣いていても誰かが気にするなんてことが無い。

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菫青と水晶 ラムネ夜 @2196-GoJ

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