第4話 罠
「……まさか、二枚持ちか」
弘樹は、落石の砂塵の中で不敵に笑う宇喜多凪を前に、身構えた。加藤清正のカードから放たれる熱気が、冷たい金沢の空気を歪めている。
しかし、凪は深追いしなかった。
「金森長近……。今のあんたに興味はない。もっと『毒』が回ってから相手をしてやるよ」
凪はスマホを操作し、闇に溶けるように姿を消した。
11月15日、京都市中京区。
弘樹は「金森長近」の導きに従い、京都へと足を踏み入れていた。かつて長近が京の町割りを参考にしたように、この地には彼の力の源泉があると考えたからだ。
烏丸通から一本入った**「京町通」**。
古い京町家が並ぶ風情ある通りを歩きながら、弘樹はSNSの裏掲示板をチェックしていた。そこには、参加者たちの間で囁かれる驚愕の情報が書き込まれていた。
【リーク】最強のレガリア『真田幸村』、二条城付近に出現。所持者は負傷。今なら奪取可能。
「真田幸村……」
その名を聞いた瞬間、胸が騒いだ。大坂の陣で家康を追い詰めた伝説の武将。もしそのカードが手に入れば、宇喜多凪のような「毒」や「暴力」を振りかざす相手にも対抗できるかもしれない。
長近の意識が「……待て、主よ。これは出来過ぎている」と警告を発した。しかし、これまでの連戦で疲弊していた弘樹は、その懸念を振り払った。
「行くしかない。先を越されたら終わりだ」
弘樹は京町通を抜け、二条城へと急ぐ。
しかし、周囲の気配が変わったのは、閑静な住宅街の路地裏に入った時だった。
「……掛かったな、愚か者が」
低く、響くような声。
前方の角から現れたのは、仕立ての良いスーツを纏った男――第4の参加者、九条蓮だった。彼の指先には、冷たく光る『明智光秀』のカード。
「幸村のカードだと? そんなものは存在しない。僕が流した偽情報だ」
九条が指を鳴らすと、路地の空間が歪んだ。
キーワード:『三日天下の盤面』。
弘樹が歩いてきた道が消え、四方を高い壁に囲まれた袋小路へと変貌する。長近の『城下構築』で書き換えようとするが、九条の「因果律操作」の方が一歩早く、弘樹の認識を狂わせていく。
「金森長近は、信長様に忠実な赤母衣衆だったな。ならば、ここで僕に討たれるのも歴史の必然だ」
背後の屋根の上から、数人の影が飛び降りてきた。九条が金で雇った「現実の」暗殺者たちではない。光秀の能力によって具現化された、実体を持つ幻影兵だ。
「がはっ……!」
不意を突かれた弘樹の脇腹に、鋭い衝撃が走る。
京町通の静寂は破られ、弘樹は絶体絶命の包囲網の中に立たされていた。
令和サヴァイヴ 鷹山トシキ @1982
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