主人公、伊達の過去に焦点を当てた「青春篇」を描きます。彼がなぜ「アウトサイドの魔術師」と呼ばれるようになり、どのような経緯でコートから離れ、そして再び戻ってきたのか、その原点となる物語です。
OUTSIDE - 青春篇:伝説の始まり
狂騒の1999
1999年、夏の東京。太陽が照りつけるアスファルトの上で、伊達は輝いていた。まだ「アウトサイドの魔術師」と呼ばれる前、彼は高校バスケ界の異端児、**伊達 悠(だて ゆう)**だった。
彼のプレイスタイルは、規格外だった。身長は特段高くないが、そのスピードと判断力はコートの全てを支配した。特に、相手の意表を突くノールックパス、そして常識外の角度から決まるシュートは、敵味方問わず、観客の度肝を抜いた。彼は、コートの「内側(インサイド)」の論理や戦術を無視し、常に「外側(アウトサイド)」からゲームを破壊し、創造した。
当時、彼は伝統ある強豪校に所属していたが、その自由すぎるプレイスタイルはチームの監督とは常に衝突していた。
「伊達!また勝手なプレイを!お前の独断専行のせいで、チームのリズムが崩れている!」
監督の怒鳴り声に、伊達は汗まみれの顔を上げ、冷たい目で言い返した。
「勝ってりゃ、文句ねぇだろ。俺のプレイが、一番勝つ確率が高い」
伊達の横柄な態度と、それに反する圧倒的な実力は、チーム内に軋轢を生んでいた。彼の唯一の理解者は、幼馴染でチームのエース、ケンジだけだった。ケンジは伊達とは対照的に、チームプレイを重んじる、熱い心の持ち主だった。
「悠、お前、もう少し監督の話を聞けよ。俺たち、全国で優勝したいんだろ?」
ケンジは伊達の肩を叩いた。
伊達はボールを地面に叩きつけながら、視線を外した。「全国なんてどうでもいい。俺が証明したいのは、俺のバスケが正しいってことだけだ」
「お前のバスケは、もう十分正しいだろ!誰もがお前の才能を認めてる!」
「違う。俺は、**このコートの外の世界(アウトサイド)**に、俺のバスケが通用することを証明したいんだ」
アウトサイドの代償
高校最後のインターハイ予選決勝。相手は因縁のライバル校。試合は最終局面、同点で残り10秒。
監督はタイムアウトを取り、伊達に指示を出した。「伊達、ボールはお前に預ける。だが、必ずケンジにパスを出せ。あいつが確実にシュートを決める!」
しかし、伊達の頭の中には、すでに自分のプレイしかなかった。彼は監督の指示を無視し、最後のワンプレー、コート中央からドリブルで切り込み、相手のマークを華麗に抜き去った。
誰もが彼のシュートを確信した瞬間、伊達は突如、リングではなく、コートの外のベンチに向かって強烈なパスを出した。そのパスは、監督の顔面を直撃した。
体育館は静まり返った。伊達の行動は、完全に意図的なものだった。
「俺のバスケに、あんたの指示は要らねぇ」
その隙に、相手チームがボールを奪い、ブザービーターを決めた。チームは敗北した。
試合後、伊達はチームから追放された。彼はバスケから遠ざかり、荒れた生活を送るようになった。しかし、彼が本当に失ったのは、バスケを共有する唯一の親友、ケンジからの信頼だった。
「お前は、俺たちの夢を壊したんだ。お前は、いつだって自分勝手だ。二度と俺たちの前に現れるな」
ケンジの最後の言葉が、伊達の胸に突き刺さった。それは、伊達がコートから、そして人生の「アウトサイド」へと追いやられる、決定的な瞬間だった。彼の天才は、その傲慢さゆえに、自らを孤立させた。
再会のコート
それから十数年。伊達は裏社会で生きる「掃除屋」となっていた。ある夜、依頼の調査で立ち寄った薄暗いストリートコートで、彼は偶然にもケンジが指導していたバスケチームのポスターを見つける。チーム名は「ブラックキャッツ」。そのポスターの端に、アヤのまだ幼い写真があった。
ケンジは、伊達が去った後もバスケを続け、このストリートコートで子供たちに希望を与えていたのだ。しかし、ポスターの下に貼られた新聞記事には、チームを巡る不正と、ケンジが何者かに襲われ、再起不能となった事件が報じられていた。
雨に濡れたコートに立ち尽くす伊達。彼の脳裏に、ケンジの最後の言葉が蘇る。
「…俺たちの夢を壊したんだ」
その時、伊達は理解した。あの傲慢なプレイは、ただの自己満足だったのではない。彼は自分のバスケを証明することで、ケンジを含む、誰もがコートで輝ける「アウトサイド」の世界を証明しようとしていたのだ。
伊達は静かにトレンチコートの襟を立てた。
「ケンジ…お前が守ろうとしたアウトサイド、俺が引き継ぐ。そして、この街のルールを、俺のバスケで書き換えてやる」
その決意とともに、伊達は再びバスケットボールを拾い上げ、「スターフレンズ東京X」を結成する。彼の青春は、傲慢な天才として終わりを迎えたが、その過ちと代償こそが、彼を「アウトサイドの魔術師」として再生させる、原動力となったのだ。
いかがでしたでしょうか。伊達が「アウトサイドの魔術師」と呼ばれるに至った背景と、彼が抱える過去の因縁(ケンジ、そしてアヤのチームとの繋がり)を描き、本編のハードボイルドな展開に繋がるように構成しました。