手のひらの体温(現代/恋愛/ほのぼの)

しとえ

手のひらの体温(現代/恋愛/ほのぼの)

 空から舞い落ちる雪は白く何もかも覆い隠してゆくようだった。駅の前のイルミネーション、 騒々しい街の音。

誰もが足早に過ぎ去って行く中で私は1人彼を待っていた。

 私だけが動かない。

この世界の中で私だけが止まっている…そんな気がした。


「また早く来てただろ」

彼の声が聞こえて背中からのハグ。

彼の吐息が耳元にかかる。

「ちょっとだけね」

指先はかじかんでもう感覚すらない。

そんな私の手を彼は握りしめた。

……あたたかい。

「こんなに冷えて、ほら!」

差し出されたのはカイロ。

「使い差しで悪いけど」

はにかんだような笑顔。

それは彼のぬくもりを内包しているかの様だった。

冷えた指先に感覚が戻っていく。


 時計の針は定時を示す。

オルゴールの音が辺り一面に響いて、からくり時計から妖精が飛び出した。小さな魔法がかけられた気がする。

「行こう」

「うん!」

ぬくもりの魔法は暖かさとともに幸福を伴って私の元にやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

手のひらの体温(現代/恋愛/ほのぼの) しとえ @sitoe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ