第3話 訓練場での出会い
目が覚めると白い天井が見えた。ふかふかのベッドで寝ている。少し消毒液の匂いがする。ここはどこだ?
「おぉ。目覚めたか」
声の主を見るとそこには威厳のあるおじさんが立っていた。いや、おじいさん? 少し見た目は微妙にみえた。おじさん以上おじいさん未満というのがしっくりくる。でもここはおじさんと言っておこう。
「おじさんは……誰ですか?」
「具合は大丈夫かのぅ?」
何のことか一瞬分からなかった。ふと考えると、昨日の出来事が雪崩のように頭の中に入ってきた。
「あれ? 泣かせてしまったかのぅ……」
言われて頬を触ると一筋の涙が出ていた。
怖かった。
それを思い出すと余計目から溢れてきた。
あの時の光景の全てが頭にまだ焼き付いている。全てが悪夢のようだった。
でもおじさんの顔をみるとなんだか少し落ち着いた。僕はそっと涙を拭く。
「おじさんの顔をみると少し安心しました」
「誰がハゲだ!」
「いや、ハゲとは一言も……」
「でもハゲとは思ったんじゃろ?」
それにしてもハゲという自覚はありそうだけど、それをコンプレックスとみなしているタイプのおじさん……。一番面倒くさい。
僕はクスっと笑ってしまった。
頭のてっぺんが美しいくらい光っている。こういうタイプとは話したことがなかった。
「わしはここ、訓練場の所長、
なかなか偉い人に聞こえる響きだ。
「訓練場ってここのことですか?」
「あぁ。まだ言っておらんかったか。ここは討魔隊を育成するための施設で……」
「討魔隊ってなんですか?」
「あぁ。まだ言っておらんかったか。討魔隊は狂い魔に対抗する戦士で……」
「狂い魔ってなんですか?」
「あれ? 狂い魔も知らんの?」
かなり説明を省きたがる人のようだ。
簡単に説明をされた。狂い魔とは人の感情から生まれる化け物だ。正確には感情に呼応して動く魔力たるものがあるらしく、その魔力が独立して狂い魔になるらしい。うん、ちょっとよくわからない。
例えば僕からできた狂い魔は父や同級生に対する怒りが抑えきれなくなって独立したものだ。怒りの魔力の色が赤黒いから狂い魔の色も赤黒かったらしい。
そして討魔隊。世界の狂い魔を排除しようとする組織。ついでに討魔隊っていうのは日本だけの名称で海外では世界(Universal)ナイト(Knight)連盟(Association)、略してUNKA (ユニカ)と呼ばれる。ちょっとした雑学。
ここ、訓練場は討魔隊を養成する施設で、様々な理由から狂い魔に関わった人間が多いとのこと。厳しい訓練もあるそうで、僕がここに呼ばれたってことは……。
「僕に討魔隊に入れってことですか?」
「まぁそうなるのぅ」
「なんでですか?」
「まぁ色々あるんじゃよ。人材不足だの、若手が少ないだの……」
「嫌です! 大体そっちの都合じゃないですか!」
「お前のためでもある、奏多」
おじさんは真っすぐ僕を見る。僕は思わず目をそらす。
「お前さんは自身の狂い魔に命を狙われる立場になる」
「なんでですか?」
「それは……その……説明が面倒くさい」
「……」
はぐらかされた。
「まぁやってみ。友達もできるじゃろうて」
そのままおじさんは立ち上がりどこかへ行ってしまった。……なんなんだあの人。
次の日、僕はおじさんに訓練場内を案内された。
「広いですね」
「そうじゃな。田舎だからな」
東京の郊外に建てられたこの建物は自然と建造物が共存したような、居心地の良い場所だった。
ドーム状になっていて周りに色々な設備がある。
「少しドームの中に入ってみるか? 訓練生がおる。明日からお主も加わるんじゃぞ?」
「……友達、か……」
小学校の頃は虐められ、中学校の友達は死んだ。ほぼ僕が殺したようなものだ。もう友達はこりごりだ。
「まぁ、話してみ」
おじさんはドームへの扉を開けた。僕は後ずさりした。
「あ、やっぱトイレ……」
僕は言葉を言い終える間もなくおじさんに腕を掴まれ、ドームの中に引きずり込まれた。
カッ! カッ!
木刀同士がぶつかる音が聞こえる。
「これは…」
「訓練生たちじゃよ」
おじさんはゆっくり前を向く。眩しいものを見るかのように目を細めた。
「この中から毎年上位5人が討魔隊入隊試験に挑めるのじゃ」
そこでは一人の女の子と男の子が打ち合っていた。素人の目では互角に見えるが、男の子のほうが辛そうだ。周りでは他の訓練生と思われる人々が観戦している。
「入隊試験までまだ半年あるんじゃ。お主も才能があればトップ2くらいにはなれるかもしれんなぁ」
とてもじゃないがあの戦いに混ざれる気がしない。
「無理ですよ。ていうかなんでトップじゃなくてトップ2?」
おじさんはニヤリと笑って僕を見る。
「現在のトップは今目の前で戦っているあの女の子じゃ」
あの子? 確かに剣技はすごいけど体は小さくてパワーがなさそうだ。
「強さを見た目で判断したらあかんよ」
そんな僕の気持ちを察したらしい。
「ほら目をよく開けてみておれ。あれが訓練場ナンバー1、『
女の子は剣を構える。空気が変わった? 剣から炎が出る。少女に炎がまとう。観衆の視線がその一点に集まるのが分かる。
「神楽流抜刀術・一式『炎斬』」
少女がそういった瞬間、男の子の剣が宙を舞った。剣の振りが見えなかった。見えたのは剣が通り過ぎたであろう場所に浮かび上がる、炎の軌跡だけだった。
「彼女は別格じゃ。もしお主が半年で彼女を越せたら……化け物じゃな」
言葉がでなかった。これが現実か疑った。その剣技はあまりにも浮世離れしていたから。
「やっぱ神楽春香ってすげぇよな」「一人だけ格が違う」「あれは化け物だな」
周りからそんな声が聞こえる。徐々に周りが騒ぎ始める。僕はまだ戻ってこれていなかった。あの剣技は美しかった。炎をまとい、剣を振る姿は幻想的だった……。
「あれ~? 新しい子ですか」
「そうじゃ。仲良くしてやってくれんかのぅ」
体がビクッとした。いきなり近くで声をだされるとビックリする。誰だ? ふと横を見る。
「私は神楽春香。よろしくね」
これが僕と彼女の出会いだった。
次の更新予定
ボクの狂い魔 @tamakki
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