第4話 ありきたりな中学生女医の、よくある羞恥。






「グギャアアア」



 今回も凄絶な戦いだった。魔獣は、現れる度にその強さを増していく。自身をアップデートしていかなければ。強い覚悟が問われている。


 しくじれば自らの命を失うばかりでなく、この街を、この世界を護れないのだから。


 まだ中学生だから、なんて甘えを吐く気は毛頭ない。何故なら僕は‥‥否。我々一族は。



 幾星霜、退魔の使命を連綿と受け継ぐ宿命の一族。


 梅園家、なのだから。




 はい、配信終わりっと。




 ‥‥うん。今回も脳内ナレーションはいい出来だ。しかし、毎回疑問に思うんだけど?


 魔獣って、何で毎回同じ断末魔なんだろう? 縛りかなんか?






 ***






 定番の後遺症が出て、動けない僕はまたいつもの病院へ。暫くして愛依さんも来た。


「この秘薬って、飲んでから効くまで長いよね?」

「そうよ。法力は徐々にしか回復しないの。でも、わたしの治癒の法力をたくさん籠めれば、一気に治す事は可能よ」

「じゃあそうしてよ」

「医者としてはお勧めできないわ。お薬って、必ずデメリットがあるのよ。オーバードーズって知ってる?」




『ビロンビロン♪ ビロンビロン♬』

「「わっ!?」」


 二人して驚く。携帯が鳴った音だ。


 この不快な音は‥‥魔獣警報。


 愛依さんが素早くスマホを確認する。


「見て! 中継よ。梅園一族が迎撃してないから、魔獣が街に近づいてるって」


 彼女のスマホには「LIVE」と冠した動画。

 郊外の風景と、実況するテレビの人が。


 うわ大変だ! 誰もいないのか?


「だって今日は咲見くんが出張るくらいだもん。中学生組が出払うともう、甥っ子とか?」

「いや小学生に流石に退魔は?」

「そうよね‥‥どうしよう? 他にも魔獣が出てて、大人は全部そこに」


 動画に、なんか見知った公園とかが見えて、その木々の奥に巨大な魔獣の動く様子が。


「ヤバい。もうこんな街近くに」

「早く行かないと被害が出るわ」


「‥‥くそっ!」



 時間が無い。

 天井の一点を見つめる。




 僕は、決心した。



「‥‥‥‥飲むよ! ほ乳瓶で!」


「え?」


「僕が行く。法力濃いヤツを、ほ乳瓶で一気に飲む! 愛依さん。準備を」


「う、うん」


 もうこの際、体裁とか気にしている場合じゃない。僕はこの街を、この世界を護る退魔の一族。


 笑われていい。

 馬鹿にしたいヤツはすればいいさ。僕は、僕の使命を果たす!


 みんなを。こののいる世界を護るんだ!!



「いいの? 暖斗くん‥‥」


 愛依さんが戻ってきた。その手には秘薬入りほ乳瓶。

 彼女が呼吸を止める。あの綺麗な目が閉じられる。

 両手で胸の前に掲げた瓶の、その輪郭が微かに光った。彼女が治癒の法力を込めたんだ。


「頼む。目、閉じてるからその間に」



 こくりと頷く愛依さんが、心なしか生気がないように感じた。首の後ろに手が回され、右肩越しに彼女の気配と体温を強く感じる。




「‥‥?」




 あれ? ほ乳瓶が来ない。



「準備OKだよ」

「‥‥うん。まだミルクが少し熱いみたい」

「そんな。本物の赤ちゃんじゃないんだから、少しくらい熱くたって」

「うん。‥‥じゃ」




 ――が、まだ僕の口元にあのおしゃぶりが来ない。


 あれ? と思って瞼を開くと目前に、両手で顔を覆った愛依さんがいた。









「‥‥‥‥わたし、あなたのお母さん‥‥とかじゃないし‥‥」






 そうだった。そうだったんだ。


 ほ乳瓶でミルクを飲む、飲ませるミッション。


 死ぬほど恥ずかしいのは、僕だけじゃ無かった。






「ほら、愛依さん、さんざん僕に飲めって言ってたのに。はは」



 スマホからは、騒然とする現場映像。絶叫するアナウンサーの声が耳に響く。


「‥‥でも‥‥」


 あ、ダメだ。でっかい目がうるうる。このを責めてもダメだ。


「全然大丈夫だからさ! カモ~ン! プリーズ! ミルクプリーズ!」


 この台詞だけ切り取られて、拡散されない事を真に祈ります。




 何とかならないか? と思惑を巡らすとそこで、室内のある物が目に入る。――そうだ! あれなら!



「ね! 愛依さん。照明消そうよ。そしたらお互い恥ずかしくないよ!」


 聞いた彼女は顔を上げる。

「あっ! 名案! じゃあ電気消すね?」



 彼女が立ってスイッチまで動く。この授乳室は完全個室。

 窓は無いから、真っ暗闇になる。





「全然見えないわ。暖斗く~ん」

「ここだよ~」

「意外と距離感が」

「僕は動けないし」

「うん。じゃ、首に手を回すね‥‥きゃっ!」



 ズウン、と地響きがあった。魔獣が近い。急がねば!



「揺れたね。暗闇だとキツイけど、早く栄養剤を!」

「うん。‥‥ここ?」

「ぎゃッ! 目が!」

「ご、ごめんなさ‥‥ひゃっ!? 暖斗くんどこ吸ってるの?」

「え? だって‥‥」

「そこはだめ」

「今一瞬口に当たったのは?」

「それじゃないの。むやみに吸わないで?」

「じゃ? あ、これか?」

「ひいぃあああぁっ!!」






 パチン、と音がして明転。再び部屋に明かりが灯る。僕の目の前には、口を結んで目を逸らし、身を強張らせた彼女が立っていて。




「‥‥‥‥ごめん。やっぱり無理」

「だよね~」






 彼女の震え声に、僕は。







 若干食い気味に返事をした。






 ***






 結局昨夜は、僕は出撃できなかった。というか、僕らが医務室で「飲む、飲まない」と揉めてる内に、他の誰かが退魔したんだ。





 そのまた数日後、魔獣が出た。回復した僕は万全を期して迎え撃つ。



 あれから愛依さんとは話してなかった。あの病院で検診で会うんだけど、前みたいな感じじゃあ、もうなくて。

 ああ、仕事はちゃんとしてくれるし、質問したらちゃんと答えてくれる。


 でも何だろう。一瞬仲良くなれた気がしたんだけど。あれは幻だったのかな? 僕が勝手にそう思ってただけ? ‥‥いや、現実を受け入れよう。



 ――きっと、もう嫌われたんだろうな。





「‥‥あれ?」


 さっきから「退魔の光柱」を発動させようとしていた。でも出ない。


 そもそも、意識を集中するだけで発動したこの能力。逆に出来なくなっても、原因もわからない。


 ピンチになって集中できないのか? あるいは‥‥?


 巨大な狼が迫る。僕は、万事休すだった。






「戦って!」


 その時、「KEEP OUT」の黄色い帯の向こうから、澄んだ声。



「ごめんなさい! わたし、逃げてたの!」




 自衛隊の人影の向こうに揺れる、白衣とセーラー服。

 愛依さんだ。


「暖斗くん!!」



 はっと我に返って、敵の攻撃を躱す。危なかった。



「‥‥愛依さん!」




「ごめん。心配しないで。必ずわたしが治すから。ちゃんと向きあうから。それは『わたしにしかできないこと』だから!」





 ああそうか。そうだったんだ。


「貴方が戦ってくれたから、みんな無事だったんだよ。ありがとう! 暖斗くん‥‥!」





 僕と、このとは、合わせ鏡だったんだ。





 癒しの法力の能力者。しくじれば、みんなや一族に迷惑がかかる。

 退魔の法力の能力者。しくじれば、みんなや一族に迷惑がかかる。





「わたしは暖斗くんを信じる。がんばって!」





 正直自分が恥ずかしかった。自分しか見えてなかった。

 僕も、君を信じるよ。守り抜くよ。たとえこの身がどうなっても。


 そんなこと、どうだっていいんだっ!!







 僕は右手を天に掲げる。


『うわ。光柱でけェ』

『暖斗くんパねぇな』


 配信のコメ欄が騒ぐ。


 解放した僕の能力、規格外の光柱を振り落とすと、魔獣はあっという間に千切れ飛んだ。





 それから、一日後。


 医務室。また僕のスマホに警報音が鳴る。



 この日僕は、まだ「授乳室」で寝込んでいた。昨日の戦闘で全力を出しすぎて。そこへと、ひょいっと現れるセーラー服に白衣。





 大きな目を輝かせた愛依が。


「‥‥どうしよう。もう治さないと。‥‥コレ、いっちゃう?」



 もじもじと上目づかいで、上半身を揺らしながら。


 後ろ手に組んだ腕から見せた物は。






 あの、ほ乳瓶、だった。






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ありきたりな退魔師の、よくある異変。~いや聞いてないんだけど。MP回復でこの娘との羞恥プレイ必須とか~ いぬぅと※本作読んで作者への性癖認定禁止 @inu-to

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