場所が心に移っただけ……。

古びた木の看板の本屋「青華堂」では、閉店時間の二十時に、
ある音楽が流れる。



最近では、この音楽を聴きに、人々が店の前で足を止める始末だ。


それは、店主の神崎が奏でるピアノ。

ところで、

閉店時間に流れる音楽といえば何を想像するだろうか?


大体の日本人は「蛍の光」と答えるはずである。


神崎の奏でるピアノも蛍の光……ではなかった。
蛍の光が四拍子なのに対して、その曲はワルツつまり、三拍子なのだ。


それは、蛍の光の原曲、『オールド・ラング・サイン』をワルツに編曲したものだった。




今は亡き、妻が弾いていた曲だ……。





この曲には別れを告げる曲ではなく、
『また会うためのさよなら』を奏でる曲なのだという。
だから、人々は今日も、この演奏を聴きにやってくるのだ……。



ここに一人の男がいる。中原。
彼の人生は行き詰まっていたが、それを変えたのもこの曲だった……。







人間の人生を変えるのは言葉だけじゃない。


ご一読を。
















その他のおすすめレビュー

SB亭moyaさんの他のおすすめレビュー1,029