場所が心に移っただけ……。
- ★★★ Excellent!!!
古びた木の看板の本屋「青華堂」では、閉店時間の二十時に、
ある音楽が流れる。
最近では、この音楽を聴きに、人々が店の前で足を止める始末だ。
それは、店主の神崎が奏でるピアノ。
ところで、
閉店時間に流れる音楽といえば何を想像するだろうか?
大体の日本人は「蛍の光」と答えるはずである。
神崎の奏でるピアノも蛍の光……ではなかった。
蛍の光が四拍子なのに対して、その曲はワルツつまり、三拍子なのだ。
それは、蛍の光の原曲、『オールド・ラング・サイン』をワルツに編曲したものだった。
今は亡き、妻が弾いていた曲だ……。
この曲には別れを告げる曲ではなく、
『また会うためのさよなら』を奏でる曲なのだという。
だから、人々は今日も、この演奏を聴きにやってくるのだ……。
ここに一人の男がいる。中原。
彼の人生は行き詰まっていたが、それを変えたのもこの曲だった……。
人間の人生を変えるのは言葉だけじゃない。
ご一読を。