第3話 いらっしゃい

電車の中でもアクションゲームからパズルゲームまでいろんなゲームをやらせてみた。

RPGゲームで味方を攻撃しちゃったり敵に回復薬を投げちゃったり、経営ゲームで客に優しくしすぎて大赤字になってたり散々だ。

それでも橘くんはゲームを楽しんでいる様子だったから、私は微笑みながら見守っていた。

「最寄り駅ついたよ。」

私が住んでいる町は都心からかなり離れている。

トンビの声がかすかに聞こえた。

「僕が住んでるところと結構違うね。」

「だろうね。うち貧乏だから、家窮屈に感じるかもだけど我慢できる?」

「できる。」

橘くんと出会ってから、なんとなく私の中の母性が出てきている気がする。

「これがわたしの家。」

一軒家だ。

ここまでくると流石に緊張してくる。

男の子を自分の家に上がらせるのって意外と初じゃないかな。

もう後戻りはできないけど。


「待ちなさい!!」


私がドアを開けようとした瞬間、知らない女の子の声がした。

「お兄様!そんな女にたぶらかされてはいけませんわ!!」

ふと後ろを振り返ると、おさげ髪の女の子が緊迫した雰囲気で立っていた。

私たちの学校の中等部の制服を着ている。

「麗奈、ついてきたの?」

またこいつの知人か。

「そ、そうですわ!」

麗奈と呼ばれた女の子は私を指さして言った。

「女!」

女?

「あなたのような人にお兄様は似合いませんわ!お兄様の純粋な心を利用してたぶらかそうなど、私がいる限り不可能ですの!」

さっきからなんなんだこのお嬢様口調は。

ていうかお兄様って、橘くんの妹さんなのか。

「るみさん…僕を騙そうとしてるの?」

「なんでそうなるのよ。橘くんが私に頼んできたんでしょ。」

「確かに。」

「なっ…。お兄様があなたなんかの家に行きたいなんて…言うわけないでしょ!?」

声が近所迷惑だな…。

私は橘くんに視線を送った。

橘くんは悠太さんを追い返した時と同じように両手で相手の肩を掴んで一言。

「帰って。」

「お…お兄様…。」

やばい妹ちゃんすごい泣きそうじゃん。

橘くんもあわあわしてるしここは私が…!

「妹さん!」

「へ…?」

私は勇気を出して言った。


「一緒にゲームしませんか!!」


気がつけば私たちは家の中で同じ床に座っていた。

「いや…なんでこうなってますの!?」

「あなたがするって言ったからです。」

「そ、それは…ゲームしたいからではなく、お兄様を守るためにですわね…。」

典型的なツンデレじゃん。

私はそろそろ我慢できなくなってきたので、"そのこと"を聞いてみた。

「その口調って…いつからなの?」

「な。」

妹さんがフリーズした!

「るみさん…それは禁忌…。」

私は触れてはいけないものに触れてしまったようだ。


「これがパソコンゲーム…。」

私はゲーミングPCで一番やりこんでいるゲームを立ち上げる。

『おぉー!』

橘兄弟が共鳴した。

「こ、これは何をするゲームなの?」

橘くんは身を乗り出した。

「わわ、私にも見せてくださいまし!」

「まぁまぁ…。」

私は簡単にコントローラーの操作を教えてから橘くんにゲーム内の任務を任せた。

「お兄様!そこはスキルを使うのですわ!」

「そうだよ!…あー、そこはジャンプで避けないと!」

「わ、分かってるんだけど…!」

「死んでしまいますわ!お兄様、代わってくださいまし!」

「うん…。」

妹ちゃんはコントローラーを素早く受け取って敵に攻撃し始めた。

「え…めっちゃうま…。」

無意識に口に出てしまうほど上手に敵をなぎ倒していく。

「麗奈…もしかして隠れてゲームを…。」

「す、するわけありませんわ!でも、さっきの女の説明でなんとなく理解できましたの。」

「女っていうなや。」


それから何時間経ったか…お母さんが帰ってくるまで私たちはゲームをしていた…。

「…で、こうなったってわけ。」

「いや、どういうこと!?なんで友達1人もいない陰キャが天下の橘兄弟と一緒にいるの!?」

愛娘に言うセリフじゃねぇな。

「お…お義母様。この度は連絡もなくご自宅にお邪魔して申し訳ございませんでした。」

流石、天下の橘は切り替えが早い。

橘くんと妹ちゃんは私のお母さんに深く頭を下げた。

妹ちゃんが続ける。

「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんわ。」

「いやご迷惑は全然…てかまだ信じられないんだけど。るみ?」

「今日色々あったの。あとで話すから、お見送りしてくるね。」

私は半ば強引に二人の手を引っ張って玄関まで連れてきた。

「妹ちゃん、私の対応とえらい違うじゃん。」

「まだ貴方のことは認めてませんわ。でも、改めて自己紹介させてくださいまし。」

妹ちゃんは少し離れ、両手で長いスカートの裾を掴んだ。

「中等部3年3組、生徒会副会長『橘麗奈』と申しますわ。」

生徒会副会長…?

「よろしくね麗奈ちゃん。てか、そういえば橘くんって…。」

「ぼく生徒会長。」

私の前に会長と副会長揃ってんの奇跡だろ。

「今日の件は他言無用ですわ!私とお兄様がゲームしたことを知られたら…。」

「説教じゃ済まないね。」

「やばすぎでしょ橘家…。」

私たちは最寄り駅まで話しながら歩いていた。

「麗奈。いつからついてきてたの?」

「朝からですわ。」

「朝から?」

「朝、お兄様がイヤホンを落とされた時から。」

めっちゃストーカーだった。

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完璧な橘くんはゲームだけできない すずめ @suzume_2525

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