第1話 神性流環波動力

今日、夢に待った入隊試験日が始まる。俺は朝から興奮が止まらなかった。


「サチ!今日はいつもとちがって幸せそうだな〜」


失礼をかましながら試験会場までの道のりで声をかけてくるのはスウィン・ヴァンガード、俺白雪幸(しらゆきさち)とはローライト育成校からの付き合いであり、まぁ友達と言ってもいいだろう。


「ヴァン、人のことを世の中を俯瞰して見てる冷徹なやつみたいな言いようはやめてくれないか。それに今日に限っては緊張してるんだよ?なんてたって…」


「冗談だよ笑。そこまでマジにならないでくれよ。いい緊張ほぐしにはなったんじゃない?」


「まぁ確かに。」


そう、なんてたって今日は入隊試験日。冷静ではいられないような中でこいつの陽気さは非常に助かる。


「というかまず緊張する必要ないだろ〜 俺らは歴代でも最強の二人だって先生も言ってくれたじゃん。それともあれか?貴族様にビビっているのか〜サチちゃんは。」


これに関しては全くもってその通り。ヴァンが主席で俺が次席。これが俺たちが卒業した聖陵育成校の第何代かも忘れてしまったが卒業結果である。その中でも俺たち二人は歴代の記録を更新しまくり教師たちを驚愕させたわけである。まずもって皆が育成校に通う必要などないわけなのだが、やはり誰しもが憧れた組織に入りたいと願うのだから、元ローライトの隊員などが運営する育成校に入ろうと思うのは無理もない。普通の人が義務教育を受けるのと大差ない。

育成校にはいろんな種類があって一定年数が過ぎると卒業できるところもあるし、実力によって卒業することができるところもある。ちなみに聖陵は5年制で、つまり俺とこいつは10歳の時から卒業まで5年間ずっと一緒だったわけだ。そしてこの国には貴族層と呼ばれる者達もいる。各地の離れたところででかい城のようなところに住んでいるらしい。この国は王制なのだからそういう存在もいるのだ。実際彼らのおかげで金銭的な面の社会問題が解決してることも多いので一般人は頭が上がらないのである。


「いや、自信はあるよ?でもさぁ、未知の存在って怖いじゃん?」

「まあねぇ〜、でも逆にどんなものか見てみたいよね。ってか聖陵に貴族がいればこんな心配要らなかったんだけどなぁ。」


この世界には全ての生命にオーラが宿っている。なんか正式名称は神性流環波動力とか言う物理現象っぽい名前があるんだけど、これに関してはオーラという正式な略称が付けられた。戦闘中に「神性流環波動力がない!」とか長くてダサ過ぎる名前を報告するわけにもいかないし、歴代の人たちに感謝するしかない。オーラは万能そのものであり、身体強化にも、それ自体で波動を撃つことも、武器にまとわせて強化させることも、守備に利用することまで様々だ。だが、ここで大切なことは人によってオーラの量が違うことだ。普通の人ではオーラの量が凄まじく少ないため、戦闘なんてもってのほかオーラの存在を自分で認識できるかどうか程度である。そう、こうしてオーラの量が一定数あることで初めてローライトへの入隊が切り開かれると言っても過言ではないだろう。そして、長くなったが貴族はオーラ量が常人よりも多いと言われている。それに貴族専用の育成校というのも存在し、どうやら質が一般のものとは違うらしいのである。


「ところでヴァン、そんなに自信満々なのはいいことだが試験の内容は考えているん?あいも変わらず傾向が全くつかめないらしいけど。」


ローライトの入隊試験は毎年異なることで有名だ。二次試験まであるのだが、二次試験では個人戦をトーナメントで行うことが確定している。しかし、問題なのは一次試験。去年はランダムに組まされたペアで広大なスペースで戦い合う乱戦だったらしいし、その前の年は限られた時間内で迷宮から脱出する頭脳も使ったものだったらしい。要はどんな場面でも適用することが求められる。


「まぁ、なるようになるでしょ。」


「お前のそのポジティブ思考ほんとに見習いたいよ。」


「言っておくが、俺は今日はサチに勝ちに来たんだからな。お前はいっつもはぐらかすけど俺は忘れない。3年生の時の模擬試験のサチが…」


「もういいよ、その話」

俺はため息をつきながらそう言う。たまたま俺が一回勝ったやつをヴァンはいつも擦ってくる。おかげでいつも周りにはヴァンよりもすごいやつなのではと期待されては期待外れだったと言わんばかりなリアクションをされる俺の身にもなってほしいものである。

そんなこんなでいつも通りの緊張感0の会話をしてるうちに会場に着いてしまった。すでに多くの人が門をくぐり、受付をしている。


「なぁ、サチ。あの子どう思う?」

ヴァンがたった今受付を通り過ぎていった明らかに浮いている女の子を指さす。確かに目を惹くのも仕方がない。周りには貴族っぽい服装をしていて目立っている奴もいるが、彼女の異様さには劣る。彼女はとんでもなくでかい鎌のようなものを持っていて、しかも服装は制服。持っている武器であろうものとのギャップがあり過ぎるだろ。だが…


「浮いてるのは間違ってないけど、目を見ればわかる。あれは“やれる”やつだよ。」


「うん、強敵になるだろうねぇ。」

そう、ただ奇抜な服装をしているとは思えない雰囲気を感じさせる。俺らは育成校でかなり多くの実力者を見てきたがあそこまでは見たことがない。だけどなんか見覚えがあるような気がする。どこでだったかなぁ…


「流石に集中するか〜 ここからは、はぐれるから最後に…わかってると思うけど」


「個人トーナメントの決勝戦で会おうでしょ?そう言って一次から落ちたら流石に慰めないからな?」


「そうなりそうになったら思いっきり解放して隊長達の目を惹くプレーをするとするよ。」

確かに、全ての試験を終えた後に推薦状が届くというだけで何も全ての場面で輝かなければいけないわけではない。誰しもが得意分野があり、自分の長所を上手く隊長達に表現さえすればいいのである。まぁ、こいつが一次で落ちたら正直ありえないのだが。

こうして俺らは別れ、会場の中心つまり開会式が行われる場所へと向かう。周りは静か。パッと見ても1000人はくだらないような人数がいるが、皆が緊張しているのだ。実際俺も歩くたびに呼吸が荒くなっているような感じがする。でも同時に謎の自信も湧いてくる。さぁ、楽しむか。


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会場の中は外から見た通りとても広く物凄い数の人が並んでもなお余裕を持っている。俺は試験番号順で一番後ろにいるが、こんなにも多くの人が一斉に並んでいるのを見るのは清々しいものである。三つ隣の列の一番後ろには先ほどの大鎌ガールがいた。さっきはちゃんと見えなかったがめっちゃ可愛い。こんなことを考えてる俺はきっと落ちてしまうのではないかなどとくだらないことを考えていたら壇上に男が登ってきた。どうやら始まりそうだ。


「今年も多くの入隊志望者がいることは大変喜ばしい。最初にここにいる全員が無事に入隊できることを願っている。」

すると、周りの空気が変わる。志望者は全員息を呑んだことだろう。先ほどまでのほのぼのとした雰囲気から一転してそこには誰もが知る姿になったのだから。


「これよりローライト入隊試験を開始する。」

周りの隊員達だろうか。観客席に座る数々の人が盛り上がりを見せる。

「まず最初に自己紹介をしなくてはだな。」


「私は第一部隊隊長 ヴェイン・アルベルトだ。」

また一気に志望者の空気は重くなる。そう、目の前には隊長の中でも第一部隊の隊長、つまりは最強がいるのだ。皆が固くなるのもしょうがない。というか俺もやばい。


「早速だが試験の説明をしよう。入隊試験は一次試験と二次試験が行われる。一次試験を突破した者が二次試験に行くわけだが、二次試験に進んだからといって必ず入隊できるとは限らない。君たちに理解しておいてほしいことはローライトは人々を護るための組織であるということだ。そのために私達隊長が直接審査する。ぜひ自分の長所を生かしてアピールをしてほしい。」

そして能力だろうか、それともオーラなのか、彼は浮き始める。


「今年の一次試験は集団で行ってもらう。君たちには5人1組でチームになってもらい、これから転送される戦場で1時間生き残ってもらう。今回の試験内容はこれだけ。君たち同士で潰しあうのは禁止ではないが、メリットは全くゼロであることを伝えておくよ。安心してくれたまえ、君たちには事前に一定のダメージが加わるとここに送還されることになっているから、死ぬことはない。だが、普通に切られたら足や腕の感覚は無くなるし、痛覚も残っていることを忘れないでほしい。二次試験は生き残った者たちでトーナメントをするからそこで個人の強さを見しておくれよ。まずは一次試験、これから一緒になるかもしれない仲間と共に頑張ってほしい。」

周りはざわつく。そう、当たり前だ。今まではチームになったりすることはあっても志望者vs志望者の構図だったが、この言い方はおそらく違うのだろう。それに時間制限の試験は聞いたことがない。


「それじゃあ、健闘を祈る。」

彼が指を鳴らした瞬間、俺たちのいる場所は変わり、見知らぬ森へと飛ばされる。実際に周りには確かに四人いるのでチームメイトなのだろう。しかし、あまりの素早過ぎる展開に正直言って驚いているがどうやらそれはチームメイトも同じみたいだ。


「いきなりの展開で混乱するがまずは動こう。ここは開すぎている。」

開始したばっかなのに、どこかで衝突音みたいな音が聞こえるからだ。そういうと幸は他の四人を連れ森の中へと入っていく。流石に狙ってくださいと言わんばかりの状況であったのでよく対応できたと幸は自分で思う。何がこれから起こるかはわからないがひとまずはこの選択が安全だろう。そして、少し走ってきた後幸は口を開く。


「さっきは突然の指示に従ってくれて助かる。いきなりの展開すぎて俺もまだ脳が追いついていないが軽く自己紹介でもしよう。それでいい?」皆が頷く。


「じゃあ俺から………白雪幸、呼び方はなんでもいい、気楽に呼んでくれ。オールラウンダーだと思ってくれていい。遠距離は無理だけどオーラで中距離はいけるし、剣が得意だから近接は任せてほしい。この調子で時計周りで行こう。」そう言って左の男を見る。


「僕は春風涼(はるかぜりょう)。僕のことも気楽に呼んでくれると嬉しい。僕はてんで近距離は苦手でね。アサシン系なんだ。だから、一次試験で活躍しないと今後が厳しいからここで全力を出し切るよ。」


そう言って涼は型を取り出し、狙撃銃を顕現させる。なんとなく幸は一安心してしまった。そう、武器は事前に型を用意し、オーラを少し流すことで武器を顕現させる。これが一般的な流れなのだ。これによっていついかなる時にも武器を持って戦うことができる。さっきどでかい鎌を常備している少女を見たせいで感覚がバグっていたがやはり俺の一般感覚は間違っていなかったようだ、と幸は再認識する。涼は話を続ける。


「僕ができることは少し離れたところから援護射撃をすることぐらい。どれくらい精度がいいかっていうと…」

「ねぇ、」


そこで順番では4番目に自己紹介をするはずの女が声を上げる。


「話を割り込んじゃって申し訳はないんだけど、確認だけ。腕がいいかどうかはこの際やってみなきゃわかんないわけだから、それよりもしあなたの方に敵が行ったらどうすればいいの?大切なのはこういう話でしょ?」


「確かにそうだね。いざとなったら僕のことはもちろん無視してくれていい。試験だからね。でももしみんなが僕を守ってくれるなら必ず僕がサポートする、そこだけは頭の隅にでも入れておいてくれると助かるよ。僕からは以上だ。」


「じゃあ、次は私だね。アリス・スウェンティ、完全なオーラ使いで私も後衛タイプかな。ある程度距離があっても操作できるから涼さんと一緒に助け合う感じかな。」


「私は星川望空(ほしかわもあ)。銃使いだけど近距離の方。オーラは基本銃に使うから中距離とかは無理。短刀も持ってるから完全にファイターだと思ってほしい。」


今の所かなりバランスがいい、と幸は思いながら聞いていると右隣の男がすごく楽しそうな表情で聞いていることに違和感を覚える。なんとなく余裕のある様子だ。そこであることに気づく。


「ごめん、自己紹介の前に聞きたいんだけど一つ聞きたいんだけど、君貴族…でいらっしゃいますよね?」


「ん?あ、そうだよ。僕はフェイ・クリミナル。幸くんと望空ちゃんと一緒の近距離タイプさ。こんな機会滅多にないからワクワクが止まらないよ。よろしくね〜」


「…え?」一同が驚く。そう、無理もない。貴族といえば昔から伝統ある家系で誰も彼もが自分の家柄に誇りを持っていると言われているからだ。こんなにゆるふわな存在感を放っていたから一同驚きを隠せていないのである。そこで涼がみんなを代弁するかのように言う。


「ごめん、僕は貴族と会うのが初めてなんだけど、貴族の方はみんなこんなかんじ…なのでございますか?」


「……ん、まぁ僕は特殊かもね。それより二人ともなんか言葉遣い変になってるよ笑。僕としては普通に接してもらえる方が嬉しいよ。」


「んじゃ、そうするわ。このほうが戦闘の時に変な気を使わなくていいし。」

そう幸が言うと、頭上の方から声が聞こえる。


「みぃーつけた。」


その瞬間、あたり一面の木が吹き飛び、誰かが飛び込んでくる。何人かは衝撃に飛ばされてしまったが、ただ幸とフェイだけが反応し、二人で押さえ込む。


「……なるほど。一次試験はこんなに広いからどでけぇ巨人でも出てくるのかと思ったが…こういう感じなわけね。」

「僕も…ここまでいきなりだとは思わなかったねぇ。」


「なかなか骨のある奴もいるんだね!なんか楽しみになってきたよ」

ドス黒い目をした女は謎に興奮し始める。


ここで五人全員が同じことを思う。

“やべぇ奴が来た。” と、


彼らの熾烈な試験がはじまったのである…







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インフィニティ 天海諸刃 @norarublank

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