第2話 フィールドに乱入?ちゃんと金払え!

「おはようございまぁ……す」

「元気ないですね」

「眠いんだもん……」


 今日は神奈川県のある野外フィールドにお邪魔しています。

 ここは都会の寂れた商店街とかビルとかをそのまま活用した、臨場感あふれたフィールドなのである!

 ルールは陣取りゲーム。赤と黄色チームで分かれて、相手チームの旗を奪いに行く。ただし、旗の場所は自分のチームで相談して決めて、ゲーム開始からは一切動かしてはいけない。

 なかなか凝ったフィールドだから、カイが昨日誘ってきたのだ。

 俺とカイは黄色チーム。

 チームミーティングの時間になる。


「どうも。アンドーって言います」

「よろしく〜カブラギで〜す」

「タキです」


 黄色チームのメンバーが順々と自己紹介していく。

 みんな仲良さそう。


「こんにちは。イチナギって言います!あっ」

「おー……って待て。この子、えらい別嬪だぞ?」

「イチナギって言ったか?あの有名企業の財閥の娘さんじゃ……」

「狐耳生えてるんだし……やっぱりそうか?」


 一瞬静まり返った空気。その直後、アンドーさんを筆頭とした一部の男性陣の間に論争が起きる。どうやら、俺のこと財閥令嬢って知っているらしい。

 どうしよ、いつも仮名使ってたのに口が滑って……。


「ま、まあみなさん。サバゲーマーなんですから、出所でどころなんてどこでもいいじゃないですか?」

「ん、そうだな。悪かったよ彼氏くん」

「そうですよね。よかっ……え?彼氏?」


 すかさずフォローに入った焦り顔のカイ。いつもの澄ました表情はどこへいったのやら。

 カブラギさんがうんうんと頷く。カイは実に正しい。

 しかし、タキさんが放った一言にカイは急に真顔になる。

 その変わりように、アンドーさんが大きな笑い声を出す。そして、それに釣られるように他のメンバーも沸いた。

 ひとまず暖かい雰囲気になったチーム。とりあえず旗はある廃ビルの一室に隠すことにした。


「よし、後十秒で始まるぞ」

「ちゃんと警戒しろよ?お嬢さんは、歩兵か?」

「はい、ちょっとSCARですけど、歩兵が一番しっくりくるんですよね」

「はっ、変わってるな」


 アンドーさんがニヤッと笑って見せた。えへへ、と苦笑してみせる。カイは階段付近で開始の合図を待っている。

 その時、あたりに笛の音が響いた。開始の合図だ。

 その瞬間、扉を蹴り開けて、寂れた非常階段を駆け降りる。

 カイは屋内の階段を伝って、駆け出す。


「五時方向!敵発見!」

「ありがとう!令嬢さん!」


 タキさんがさっきまでミーティングしていた場所から狙撃をする。タキさんはL96使いだ。さすがと言うべきか、その狙撃技術は一級品だ。海兵隊出身って言われても疑わない気がする。

 遠くでヒットコールが上がった。

 おお、やっぱりすごい!


「カイ、相手陣地行こう?」

「そうですね」


 そう言って一階まで階段を駆け降りていく。

 瓦礫が所々進路の邪魔をして、迂回しないといけないところもあったが、それがまたリアルで好みだ。

 一階に到着して、SCARを持ち直したその時。


遠くで爆音が鳴り響いた。


 その直後、相手陣地で炎が上がり、誰かの悲鳴が聞こえた。

 あたりの空気が一瞬で静まり返る。

 その時遠くで監視員の人が叫ぶ声が聞こえた。


「異常事態!異常事態です!みなさん逃げて!」


 何が起きたか、でも危険だと言うことがわかった。

 監視員が何かに電話をかけているところが見えた。おそらく警察だろう。

 しかし、その監視員の姿が降ってきた人の形をした爆炎によってかき消された。それはよく見れば炎を纏っている男だった。


「何が起きてるんだ!やめろぉぉおおお!」

「逃げ──」

「誰だよ火遊びしているやつ!ふざけんなぶっ殺すぞ!」


 サバゲーのフィールドに乱入してきたものがいると言うことか?それとも敵陣に何か爆発物持ち込んだ奴がいるのか?

 知らねえけど、荒らすのは許さねえ!


「次はお前だあああ!!」

「うっせぇ!俺のサバゲーを邪魔すんなぁあああ!」


 無意識にフルオートに切り替えていた。

 サバゲーには、暗黙のルールがある。

 それは、ルール違反者には「フルオートによる鉄拳制裁」を加えること密かに許可されていることだ。

 それはこのフィールドにいる時点で誰にでも適用される。

 俺の方に飛びかかってきたその炎の男にフルオートで制裁を加える。


「あ、いたい!痛い痛い!」

「オラァ!ルール違反の罰じゃぁゴルァ!」


 集中砲火を浴びせながら、飛びかかってきたそいつをバク転で避ける。

 ファイアーメン(俺が勝手に名付けた)は俺のBB弾による弾幕制裁に、最初こそは耐えて見せたが、次第にその痛みに耐えきれなくなってうずくまる。

 お見舞いするための弾が切れたため、マガジンを取り出して再装填リロードする。

 その時、そいつは立ち上がって劫火を撒き散らせながら拳を加速させながら俺に向けてパンチを繰り出す。

 が、それを見た俺はすぐに足を払ってまたフルートでBB弾を浴びせる。

 ほれ見ろ、モスカートもお見舞いするぞ?暑中見舞いだけにな。へへ!


「ご、ごめんなさい!やめてください!」

「だぁめ♡もっとBB弾食べないとねぇえええエエエ!」


 次第にみっともなくうずくまり始めたそいつにフルオートをやめるつもりもなく浴びせ続けた。

 するとアンドーさんたちがわらわらと集まってきた。


「うわぁ……これが財閥令嬢による制裁」

「ご褒美かもなぁ」

「狐ちゃんにそんなつもりはありません」


 そんなことを口々に言いながら、みんなフルオートで奴を撃ち続ける俺を見つめ続けた。

 すると、遠くでサイレンが聞こえ始めた。

 お巡りさんこいつです。


「待って、もしかしたら過剰防衛で訴えられるかな?逃げよ」

「あ、待って狐ちゃん!」


 そのまま捕まることを恐れて走り出す俺に、カイはついてくる。

 アンドーさんたちが俺の背中を見つめ続ける。


「あの人強すぎるでしょ……」

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サバゲーやっていただけの俺、なぜか「能力者に対抗できる救世主」なんて扱われている。 狐囃もやし(こばやしもやし) @cornkon-moyashi

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