俺、サバゲー楽しんでたら救世主扱いされている。

狐囃もやし(こばやしもやし)

第1話 サバゲフィールドからこんにちは。

 こんにちは。今日は2039年4月、良い小春日和だね。

 俺は一ヶ凪零いちなぎ れい。財閥「凪ICT事業グループ」のお嬢様らしい。同時に武術名家一ヶ凪家の長女でもある。

 数年前に発見された発症率0.03%の病気、「獣化病」にかかってしまって、今は人間に狐耳と尻尾が生えた俗に言うケモノみたいな見た目をしている。

 結構気に入ってんだよね。可愛いでしょ?

 下には弟のめぐみ、そして執事に諏訪千智すわち さとという家族構成である。まあ俗に言う「超エリートお金持ち」って捉えてもらった方が早いね。

 東京都お台場の新構築地域「静海しずみ」にて生活を送り、都立静海高校の生徒として過ごしている。次期生徒会長候補としても有力らしい。

 さて、そんな俺は何をしているかというと……。


「……ヒット!」

「ワンダウン!」


 うん。室内サバゲーのフィールドを駆け回っています。

 俺はサバゲーをこよなく愛し、数々のモデルガンを自室に飾ってうっとりしているほどの自称ガンマニア兼サバゲーマーなのである。

 何と言っても、あのBB弾の飛んでいくときのアーチの美しさ、そして当てた時の「ヒット」と言う文句を聞くだけで胸が躍る!ああ、なんて素晴らしい!

 フィールドを縦横無尽しながら、うっとりとしているとトタンの板の裏に隠れている一人の男子高校生の姿が目に映る。


「どう?何人ダウンさせられた?」

「えーっとですねぇ、ざっと単純計算五人じゃないですかね?」


 その男の正体は、俺の親友古都戒ふるみや かいである。唯一無二のサバゲ仲間。幼馴染のようなもので、俺のガンマニアもカイによるものだ。

 その時、背後のドラム缶がカンッと音を立てる。

 急いで壁の裏に退避、スレスレなのもとても面白い!


「……狐ちゃん、向こうの壁です」

「おっけ」


 カイに呼ばれて、向こうの壁から顔を覗かせている男の人を見つける。

 しかし、なかなかにむやみに顔を出せない。

 そう言う時は〜?

 そう、グレネードランチャーに限るZE☆

 モスカートをすぐに装填する。俺のSCARには俺の好みでアッドオングレネードランチャーを下部レールにつけている。ちなみにレーザーサイトもつけている。SCAR-Hのくせに歩兵だから、度々他の参加者に驚かれる。

 でも、モスカート一回撃つたびにすごいお金かかるんだよなぁ……BB弾はむやみに使えないし……。

 渋っていた俺を見かねたカイは、壁の反対側に回って、手に持ったGlock17で反撃をした。ガガガッと、綺麗な発射レートを描いて、そのまま敵さんの体に吸い込まれる。

 そして遠くから聞こえてくるヒットコール。

 さっすが!

 静かにハイタッチを交わそうとした俺。しかし、遠くからBB弾が飛んできてコートに着弾してしまう。カイはすぐに向き直るけど、そのまま弾に当たってしまう。


「あ、あはは……ヒット!」

「ヒット……ですね」

「油断大敵……」


 そのまま出口に向かって歩き出す俺とカイは、不意にお互いの顔を見つめる。何がおかしかったのか、急に吹き出してしまった。

 そのまま今日はフィールドを去ることにした。


「明日は野外フィールドで遊びましょう」

「うん、そーだね!」

「決まりです。狐ちゃん、なんか食べに行きませんか?」

「お、いいね。お腹すいた。カイの奢りね!」

「いやです」

「えー、なんで!?」


 監視員さんに「さよなら!」と挨拶を交わして、そのままエレベータに乗り込む。

 ここから見えるお台場の空と、東京湾は青く輝いていてとても幻想的だった。

 その後、一階についた俺たちは街灯と街路樹の下を伝いながら、近くの喫茶店に雪崩れ込んだ。

 俺が喫茶店に入ると、店員さんと一部客にギョッとされる。そりゃ、だって見たことないでしょうね。半獣人なんて!

 そのまま席に案内されて、カイと向かい合わせになって座る。

 窓の外には行き交う人々。


「何か食べたいのありますか?」

「あ、これ可愛い!これ食べたい」

「私はカレー食べましょうかね」

「うぇーい、お子ちゃまぁ〜」

「……そんなことないです」


 テーブルに置かれたメニュー表を見ながら、注文を進める。

 テーブルに設置されたAIが俺らの会話を聞き取って、自動で注文を済ませる。

 カイはリュックからスマホを取り出して、ぽちぽちと触り始めた。


「あ、見てください」

「ん?」

「『ギャングの幹部逮捕。違法薬物の密輸、日本に差し迫る闇』ですって。なんか「ゲキヤク」って言う薬飲むと体が超強くなるって」

「うぇー……怖いね」

「ですね」


 その後ロボットによって運ばれてきたものを黙々と食し始める。

 俺はパンケーキを頼んだ。なんか期間限定らしい。期間限定って文字を見ると人間って後に引けなくなるよね!(持論)

 カイはカレーを食べてる。クールなカイが子供っぽいもの食べてるのを見るとニヤニヤが止まらないね……ぷっ……。

 カイが俺の視線に気づいて頬を赤く染める。ジトっとした視線が刺さり、すぐにわざとらしく目を逸らす。

 草。


…………。

………。

……。


「ご馳走様でした」

「ごちそーさまでしたぁ」


 たらふく食った俺は満足そうに椅子に沈み込む。

 カイはコーヒーを飲みながら俺を見ている。

 ちなみに俺はコーヒー砂糖10杯入れないと飲めない。それほど甘党なんです。


「狐ちゃん、よく食べるのに栄養どこいってるんですか?」

「胸」

「……ゲホッ」

「尻。太もも」

「……。ゲホッ……ゴハッ」

「ほっぺた」

「もういいです……」

「え?なんで?」


 胸をわかりやすく持ち上げてみる。結構重量あるよ?分けてやろうか?

 それを見て、カイはわかりやすく咳き込む。まあ、お年頃だもんね。というかその質問をする時点で確信犯でしょ。

 まあ、いいや。

 俺は立ち上がってその場を去ろうとする。ちなみに勝手にテーブルで決済は済んでいる。顔の情報からそのまま本人の口座に接続して勝手に金を取って行っている。

 カイの分も一括で払ったんだから今回は俺の奢りだね。次回はちゃんと奢ってよね?

 カイも俺の後についてくる。


「この後どうします?」

「カイなんかグッズ買いに行きたい言ってたよね?」

「あー、そうですね。じゃあ行きましょう」


 そのままJR静海駅の改札を通過する。

 階段を上がって、ホームで電車を待つ。

 その時カイが俺を見つめていることに気づいて、恥ずかしくなったから小突いた。

 青い風が吹き抜ける。

 一風変わらないこの日常に、裏組織の影が忍び寄っていることにも気づかず。



__

こんにちは。

見つけてくださったあなたは最高の仲間です。

わがまま言うなら、星が欲しいです。

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