第1話 ガスティン・ゴールドン
「ブヒ、ブヒャヒャヒャ!! いいなぁ! 気分がいい! やはり庶民の前で喰らう肉ほど美味なものはないな!」
貧困に喘ぐ民は血色も悪く、痩せ細っている。そしてひれ伏している平民で作られた道の中心を闊歩する二人組。
1人は黒髪にとても太った男で、紅の瞳が特徴的で吊り目気味なのもあるが、とても人相が悪い。
そして肉のソースを口の周りにつけていて行儀も最悪だ。
彼の名前はガスティン・ゴールドン。
ここら一帯をまとめ上げている、偉大なる侯爵ジャスパー・ゴードンの一人息子だ。
裏では黒髪と体型を揶揄して黒豚や、醜い豚、トロールなどと言われている。
「なぁ、フランシスお前もそう思わんか?」
「……ガスティン様のおっしゃる通りです」
そしてガスティンの少し後ろを歩いているのは銀髪の美女で、ポニーテールを低い位置で三つ編みに結んでおり、前髪で片目を隠している。
また表情は硬く氷のように無表情で何を考えているのか分からない。だが、仕事は恐ろしいほど素早く正確で一部の人は彼女をサイボーグだと思っている。
彼女の名前はフランシス。ガスティンの専属メイドだ。
「ブヒ、ブヒャヒャヒャ! そうだろう! そうだろう! なんだ小僧、物欲しそうな顔だな」
「…………」
ガスティンはひれ伏す平民の視線に気がついた。そして視線を送る少年の元へゆっくりと歩き出した。
「……も、申し訳ありません! ガスティン様! この子はまだ子供で!」
隣にいた親が子供の頭を地面に無理やりつけさせる。
「ブヒャヒャヒャ! 構わん構わん。おい小僧これが欲しいか?」
ガスティンは手に持っている肉を少年へ向けて差し出す。
「……は、はい!」
少年は嬉しさで目を輝かせた。少年にとって、いやこの領地に住む平民にとって肉は高級品だ。年に一度祭りの時以外は口にできない。
「そうか、そうか。……それ、喰え」
「……え?」
ガスティンはなんの躊躇もなく肉を地面へと放り投げた。
「ブヒャヒャヒャ! それ、トッピングをしてやろう! ブヒャヒャヒャ! オレ様はそんな肉喰いたいとも思わんがな!」
「うわーん! えぇぇーん!」
ガスティンは追い打ちをかけるように自分が落とした肉を踏んで、砂をつけた。それをトッピングといえるガスティンの性格はひん曲がっている。
そして少年の泣き声を聞いて満足した様子で歩き始めた。
「…………るな」
「ん? 何か言ったか?」
ガスティンは歩みを止め、振り返る。
「……調子に乗るな! この黒豚が! 俺達はお前の道具じゃない! お前なんか死んでしまえ!」
何かが爆発したように少年の両親は叫んだ。
そしてそれと同時に少年の両親は近くにあった石をガスティンに向けて投げた。
「ガスティン様!」
「ウッ!? ……貴様! オレ様に向けて石を投げるなどと! 石ころ以下の存在である貴様ら平民が! 一族揃って打首に……ウッ!?」
石はガスティンの頭に当たりガスティンは頭から血を流した。しかしそこで異変が起こった。ガスティンの頭に石が当たった以上の痛みが走ったのだ。
「衛兵! 彼を捕まえなさい! ガスティン様、すぐに手当します」
フランシスは冷静に支持を出しながらもガスティンのそばに駆け寄る。
「あっ、アァァァ!! 頭が割れル!」
ガスティンに何か莫大な情報が押し込まれるかのような頭痛が襲う。
「ガスティン様! 大丈夫、傷は浅いですから落ち着いてください!」
「ソウじゃない! 俺はオレは……」
ガスティンは言葉の途中で白目を剥いて倒れてしまったのだった。
「……気分が悪い」
目を覚ますと俺は豪華な部屋のベッドの上だった。
知っているここはオレ様の部屋だ。
あの時餓死した俺と、傲慢で尊大なオレ様の意識をシェイクして無理やり混ぜたような、最悪の気分だ。
「しかもこの世界……」
オレは知っている。ガスティン・ゴールドンはゲーム『キングオブキング』の悪役貴族の名前だ。
「ああ、クソ……最悪だ」
オレはそう遠くない未来に殺される。
「……ガスティン様、目を覚まされたのですね」
体を拭うためのタオルと水の入った桶を持ったフランシスが部屋に入ってきた。
「……あぁ」
「無事に目が覚めて良かったです」
表情は分かりにくいがオレを心配するような声色で話すフランシス。
フランシス。いや、コードネーム〈シルエット〉……王都の暗部組織で最強と恐れられるこの女の手によってオレは殺されるのだ。
悪役貴族に転生したけど、才能がないなんて聞いてない!~醜い豚と罵られるオレは努力でハッピーエンドを掴み取る~ コーラ @ko-ra
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