第四話
わたくしはその次に屋敷を抜け出した夜、お参りをしている清之助さまの前に降り立ちました。
あの日の赤い満月と相まって、わたくしの異形の姿は恐ろしくはあるものの、一方では、自分で言うのもなんでございますが、一種の神々しさのようなものを帯びていたと思います。
わたくしどもの異形。
それは、翼、です。
鳥御門の女子には、翼がございます。
しかしそれは、西洋の
わたくしどもは、肩より先が鳥の翼。
人間の細くしなやかで、弱々しい腕とは違う。
それでいて、鳥であればないはずの五本の指は、翼の先にちゃんとあるのです。
あの方は、恐怖というよりはただただ驚きに目を見開くばかりでございました。
もしかしたら、最初はただ、着物の袖の様に見えたのかもしれません。
わたくしは自らの威厳を誇示するように、両の腕を、その翼をしっかりと開いて、この姿を清之助さまの目に焼き付けました。
「『鳥御門の卵』を、貴方に授けましょう。それを食せば、あの女子は助かるやもしれません」
「なんと‥‥‥!」
その時の清之助さまのお顔と言ったら。
自分の願いを神が聞き届けたと思ったのでしょう。
「有難い。本当に有難い! 何と礼を申したらよいものか‥‥‥」
「ただし‥‥‥」
ここからが肝心。
膝をつき、目に涙を浮かべる清之助さまに、わたくしはきっぱりと言い渡します。
「清之助さま。貴方は鳥御門の、わたくしの婿となること。そうでなければ、卵はお渡し致しませぬ」
あぁ、今思えば、なんと意地の悪い話であったでしょう。
このまま卵を得ることなく、想い人を死なせてしまうのか。
わたくしと夫婦となり、結ばれることのない
わたくしはその選択を迫ったのでございます。
実はこの時、わたくしの胸には一つの算段がございました。
それは、『鳥御門の卵』は重病を癒すほどの力はない、ということに起因しております。
つまり、清之助さまの思い人は、卵を食べたところで助からないだろう、と踏んだのです。
わたくしと結ばれても、想い人が生きていたのでは、清之助さまのお気持ちが完全にわたくしのものになることはないでしょう。
ですから、千代に生き延びられてはわたくしの心が安まりません。
結局、清之助さまはわたくしの申し出を受け入れました。
わたくしは自分の計略が上手く行ったことに満足する一方、清之助さまにそうまでさせる千代のことが、酷く憎く思えたのでした。
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