第三話

 そんな控えめであったわたくしの淡い気持ちは、あの日、変わったのでございます。




 わたくしは、清之助せいのすけさまが近頃、夜な夜なお百度参りをしていることを知りました。

清之助さまと云うのが、わたくしの心に在った、あの方のお名前でございます。


 鳥御門とりみかどの者は総じて夜目が効きにくく、夜間に出歩くことはほとんどございません。

しかしわたくしに関しては、視力が大変よく、夜でも不都合がないほどであったので、時折こっそりと抜け出して、街を見に行ったのでございます。


 そんな時、あの方が神社の方へ向かう姿を見つけたのでした。

そこで、懸命に何かを祈っておられました。




 それからというもの、わたくしは何度も街に降りて、あの方のことを探りました。

そうして分かったことは‥‥‥。




 あの方には、いずれ夫婦となると決めた、千代という女子がいること。

千代は病で臥せっていること。

病状は芳しくなく、もう長くはないと医者に云われたということ。


 それを知って、わたくしの心に、一つの考えが浮かぶのは、自然なことであったと思います。

あの年頃の恋というものは、得てして、必ずしも美しいというだけのものではございません。


 

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