後編

街は暗闇に包まれ、パニックに陥っていた。

渋滞する道路、沢山の人。

UFOが現実に現れたのだから当然だ。

盗んだ自転車も、人を引いてしまいそうになってすぐに降りてしまった。

一刻も早くあの場所へ行かないといけないのに。


走る。走る。走る。

会ってからのことは後で良い。

今はとにかく、会いたい。

1人にさせたくない。

あの気の記憶が頭に浮かぶ。


「俺が莉乃を守るよ」


「………プッ、ハハハッ!……うん、守ってね」


あの日の約束を、俺は何も守れていない。

その時だった。


「……?」


いつか感じたあの感覚。

莉乃が向こうにいる気がする。


「君は特異体質らしいっチャね」


前にチャッチャが言っていた言葉を思い出す。

その感覚を信じてまた走った。

莉乃以外何も考えずに。


住宅の屋根を飛んで走る、様子のおかしい人影が遠くで見えた。


「莉乃!」


信じたくない。あれが莉乃だなんて。嘘だ。

あんな状態で戦おうとしてるのか?

莉乃。莉乃。莉乃!


辿り着いたのは公園だった。

高い場所に位置していて、街を一望出来る。

莉乃は空中に浮かぶUFOを眺めている。


「莉乃」


反応は無い。


「帰ろう?皆心配してんだぞ。お父さんお母さん、俺…。駄目だろ、病院から抜け出したりなんかしたら」


莉乃の後ろ姿を見て涙が出る。

こんなの、絶対に戦える体じゃない。


「……………千春」


「な…?帰ろう?」


莉乃が地面に膝を付く。


「莉乃!大丈……ぶ…………」


近づいて見た莉乃の表情を見て絶句する。


「千春…千春ぅ……うぁあぁああ……!」


おかしい。


「莉乃!莉乃!!」


莉乃の正面に移動して両肩を揺らす。


「見えない…のか?」


近くからクスクスと笑い声が聞こえる。

莉乃の肩から現れたのは。


「チャッチャ…?」


「久しぶりっチャ、千春!いやぁ、凄く面白いものを見せてもらったっチャ」


そこには、ノットルンにやられて行動不能と思っていたチャッチャが、陽気な雰囲気で現れた。

莉乃が抱きつくような動作をして、俺の名前を連呼する。

そこには何もないのに。


「莉乃には今、僕のまぼろしビームで幻を見てもらってるっチャ!そ・れ・は…千春をノットルンに惨殺される幻っチャ!」


「チャッチャ、何言ってんだよ…」


「良い顔してるっチャ。そのお顔が見たくて、わざわざ道の真ん中でまぼろしビームを解いたっチャからねぇ」


「莉乃から離れろ!」


「嫌だっチャ」


莉乃の肩から振り払おうとするも、莉乃を傷つけてしまいそうで上手くいかない。


「お疲れの様子っチャね。でもこれからが本番っチャ」


「…本番?」


「楽しいことを教えてあげるっチャ。ノットルンは地球を乗っ取る為に宇宙から攻めてきた宇宙外生命体、初めて会った時にそう言ったっチャね。あれは嘘っチャ。本当は…」


その表情は、今まで見たことの無いほどの悪。


「僕が、この星を乗っ取るんっチャ」


チャッチャはそう言うと、表情を変えた。


「莉乃…大丈夫っチャ?」


「チャッチャ…」


チャッチャが莉乃に寄り添う。


「止めろ…」


声が届かない。


「…千春を守れなかった。私は魔法少女なのに、大切な人1人守れないなんて…私もう…」


「チャ」


チャッチャが莉乃の頬に寄り添う。


「…温かい」


怒りが我を失いそうなくらい膨れ上がる。

だけど、何も出来ない。

莉乃に俺の姿は見えず、声も届かず、コイツを引き剥がすことも出来ない。


「! 莉乃、ノットルンっチャ!」


チャッチャが指をさしたのは上空に浮かぶUFO。


「…チャッチャ、私戦うよ」


莉乃が魔法少女に変身する。


「駄目だ」


「きっと千春は止めるだろうな…。優しいから、私を心配して」


「あれは敵じゃないんだ!本当の敵はコイツなんだよ!気づいてくれ莉乃!」


「千春…ごめんね。私、皆を守りたいの。その為なら自分の命なんて惜しくない」


泣きながら誰もいない地面に向かって話す莉乃。


「私は沢山人を救いたい。千春がいたこの星を守りたい。こんな私を許してね。いつかまた叱ってもらえるように、私頑張るから。

見てて。大好き」


莉乃は空高くジャンプした。

それは、必殺技を繰り出す為の───。


「駄目だ!莉乃!」
















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魔法少女になった幼馴染はこの星を救った かきまぜたまご @kakimazetamago

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