魔法少女になった幼馴染はこの星を救った

かきまぜたまご

前編

中学3年生になった春、君は言った。


「千春!私、魔法少女になったんだよ!」


突然魔法少女になったとか、意味の分からないことを言う君。

当然俺はそんなこと信じなくて。

でも、それから2ヶ月が経った頃、俺が間違っていたことを知ることになる。


通学中、家の屋根を走る人影を見た。

それは2ヶ月から学校に来なくなった幼なじみにそっくりで、その後を追いかける。

しかし、どれだけ走っても幼なじみは見つからない。


「どこだ…?見間違いだったのか?いや、あれは莉乃だった」


辺りを見渡す。すると、何故か向こうに莉乃がいる気がして、手がかりの無い俺はその感覚を信じて走る。


「莉乃…」


「千春…千春だ!」


そこに千春はいた。

可愛らしいドレスを着た君は、まるでフィクションでよく見る魔法少女のようだった。

千春の足元に倒れている何かは、パリンと粉々になって消えていった。


「莉乃の友達っチャか?」


莉乃の肩から小動物のような生き物が現れた。


「うん!幼馴染なんだ」


「ふむぅ…おかしいっチャね、まぼろしビームが効いてないっチャ」


「まぼろしビーム…?」


辺りを見渡す。今いるここはただの住宅街。

社会人や学生が歩いているのに、皆俺達に気づいていないようだ。


「君は特異体質のようっチャね」


この後聞いた話だけど、この小動物はチャッチャ。莉乃が名付けたらしい。

この小動物の目的は、地球を乗っ取る為に宇宙から攻めてきた宇宙外生命体ノットルンを倒すこと。

2ヶ月前に莉乃と出会い、魔法少女の力を与えたとのことだ。


その日の帰り道。


「なあ、魔法少女って危なくないのかよ」


「危なくないよ、チャッチャがくれた力だもん。ねーチャッチャ?」


「チャ!」


俺は正直、コイツに嫌悪感を抱いていた。


「チャッチャ、千春と2人で話がしたいの」


「うん。チャッチャは野良猫と遊んでくるっチャ!」


莉乃から言ってくれるとは思っていなかった。

久しぶりに2人で帰るのは心地が良かった。


「心配?」


「…そりゃ決まってるだろ」


「ハハッ、そうだよね。優しいもん千春は」


莉乃は普通の会話をしている時のように笑う。

いや、以前よりも霧が晴れたような。


「本当だったんだな、魔法少女になったって」


「うん」


「それで学校に来てないのか?皆心配してるぞ、進藤とか虎丸とか。ほら、受験も近いし」


「千春」


莉乃が魔法少女に変身する。


「何やってんだ!周りに人が───」


「大丈夫。チャッチャがまぼろしビームを出してくれるから」


周りを見ると、先程と同じように通行人が俺達を見ていない。

非日常の光景に背筋が凍るようだ。


「私ね、魔法少女になってから沢山人を助けたんだ。さっきもこんなに小さな子を、ノットルンから守ったの」


夕日が俺達を照らす。


「向いてると思うんだ、魔法少女。人の役に立ちたいって思うの、間違ってるのかな?」


「それは…間違ってないけど、危ないんじゃないのか?戦うんだろ?宇宙人と」


「大丈夫、チャッチャが守ってくれるもん」


こんな良い顔した莉乃を見たことが無い。

居場所を見つけた…いや、やることを見つけて迷いが無くなったような顔だ。

だからこそ心配になる。


「…俺が」


顔をハッキリ見て。


「俺が莉乃を守るよ」


「………プッ、ハハハッ!……うん、守ってね」


あんなことを言ったのに。

受話器を耳に当てたまま動けない。

言葉が話せない。

今までの記憶が走馬灯のように流れてくる。


家を飛び出して病院に向かう。

手術室の前には莉乃のご両親がいた。


「千春くん」


「莉乃は…」


「…なんとか、峠は超えたようだ」


泣き疲れた莉乃のお母さんの背中を、莉乃のお父さんが手を添えて支えている。

傍にいた黒いスーツを着た男によると、莉乃は全身を損傷した状態で突然道の真ん中に現れたらしい。

莉乃のお父さんがスーツの男に向かって言う。


「娘は一体誰にこんなことをされたんですか?」


「現在捜査中です」


「そんなことを聞いてはいませんよ。誰が娘をこんな目に合わせたんですか」


スーツの男は困った顔をする。


「…監視カメラの映像を何度確認しても突然莉乃さんがその場に現れたようにしか見えず、犯行のトリックが分かりません。我々も困惑しています」


「ふざけるな!!」


初めて見る激昂する莉乃のお父さん。

当然の反応だ。突然その場に現れたなんて言われたら、ふざけているとしか思えない。

しかし、俺はその現象に心当たりがあった。

スーツの男が俺を顔を伺っているのが分かり、逃げるようにトイレに向かった。


「チャッチャ」


返事はない。


「クソッ、なんで出て来ないんだよ!」


病院を出てひたすら走る。

チャッチャを見つけて話を聞く為に。

沢山の人混みを避けながらとにかく走って、手当り次第の場所を洗っていく。


「うおっ、何だアレ」

男の声がして、視線の先を見る。

それはビルに付けられたデカいモニターだった。


「臨時ニュースです。繰り返します、臨時ニュースです。先程、⬛︎⬛︎市上空に正体不明の飛行物体が出現しました!これは現実なのでしょうか?」


モニター越しに見るソレは、誰もが知るUFOのような見た目をしていた。


「奴らの拠点なのか…?何で今…」


全身負傷して突然道の真ん中に現れた莉乃。

俺の前に現れないチャッチャ。

最悪の展開が脳裏をよぎったその時、スマホの着信音が鳴った。

「莉乃のお父さん…」


ボタンをタップする。


「はい───」


「莉乃が消えた!」


「…は?」


「頼む千春くん、君も探してくれ。今の莉乃は動ける身体じゃないんだ、死んでしまう!」


消えただって?なんで?

───モニターに映るUFOを見る。


「…!」


まさか。いや、莉乃なら。


「⬛︎⬛︎市です!ニュース見てますか、⬛︎⬛︎市に現れたUFOに向かった可能性があります!」


「UFO?何を根拠に」


「後で何もかも話します、信じてください!俺は今から向かいます!」


通話を切った。

確信した、莉乃とチャッチャはノットルンにやられてたんだ。チャッチャは行動不能になってまぼろしビームが使えなくなった。だから一般人には莉乃が道の真ん中に突然現れたように見えたんだ。

莉乃はノットルンから俺達を守る為に、また戦おうとしている。


止めないと、莉乃が。

莉乃より大切なものなんて俺には───。

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