黒鵠 ~くろくぐい~
武江成緒
黒鵠 ~くろくぐい~
宮を造らせたもうにあたり帝は、柱と壁とのことごとくに、天下の
そのために、
そうして
その技を比べ、試し、
一人は西の港にて、山川草木蟲魚禽獣のことごとくを鮮やかに表して、描いたものが生命を得たりて動き立つとまで讃えられた、
いま一人は、天にまで通ずるという
いずれがより優れたる技の持ち主か、
それは、卵でありました。
はるか北の
その黒い怒濤になぶられる
荒波をすら凍えさせる北の
それは北の混じりなき雪の中にあってさえ、
その
人の手になるものでは、これより白きものは無しと
門人家人らを
千の
けれども、いかに冷たき川の瀬を、いかに寂しき
いかに多く、いかに
旅を終え、数も知れず目にした北の鳥たちの卵の色と形とを、思いだしては照らし合わせ。
何としても紙の上に
一つは、
いま一つは、その
疑いとも、
かつて北の果ての海と地とを歩き尋ねたその脚で、
人の目があったならば、その有様は魂抜けて
月の光がただ一筋のみ照らすなか、まるで風がふらりと吹き入るかのごとくに、
夜よりも黒いその闇のなかに、かすかな月のかがやきを受けて、その絵は
あれだけ果てなる地を歩き、
それは
ゆらりと動いた
――― この上もなく白く、うるわしく丸かった、その中にただ一点、真黒な
ともあれ、
日が経って、
丸い形のその中より、何かがすぽりと抜けたようなその有様。
墨で細く描かれたその形の丸さすら、あらゆる角をすべて抜かしたかのごとくで、居合わせし人々は、ぞくりと肌を震わせました。
しかしそれも、
一点の白さもなく、光を照り返すこともなく、紙のなかに
身じろぎする者、ぐらりと体を揺らす者、床に倒れ伏す者すらあらわれる中で、
それを描けと申したるに、
答えて申す
――
―― 魂のなかに、それが
―― 然しながら、ああ然しながら、紙の上に表せしその魂に忍び寄り、わずか一点、黒を塗りし者がおりました。
―― この上もなく白く表されし魂。それが黒く塗られしとき、それは
――
そう申して、
その二つの黒より、ばさばさと、無数の黒き
黒き
その傍らでは、
北の国の冬の夜が、暗く、
《了》
黒鵠 ~くろくぐい~ 武江成緒 @kamorun2018
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