新キャラ②浜田八尋もご存じの方向け
ユキタキが成立していないクリスマス※4人ver
「くっらっい夜っみっちは~ぴっかぴっかの~」
八尋がご機嫌である。
御馳走に舌鼓をうち、小休憩を挟んで次はケーキだな、という段で、愚かな俺達は物置にしまいっぱなしになっていたクリスマスツリーの存在を思い出した。ここまで来たら別になくても良いのでは、という意見を押し切り、「絶対になきゃ駄目だ!」と八尋が引っ張り出してきたのである。それで、彼がひとり、赤鼻のトナカイを口ずさみながらツリーの飾りつけをしている、というわけだ。
が。
「おっいっら、の髪がっ、やっくっに、たっつ、のさ~」
鮮やかなピンクの頭にぐるぐるとツリー用のLEDを巻き付けてぴっかぴっかと光らせ、赤鼻部分をおのれのピンク頭に替えて歌っているのである。確かにただでさえ目立つピンクだ。その上ぴかぴかと光っていたら、そりゃあ役に立つだろう。何の役に立つかはわからないけど。
「ヒロ、そろそろうるせぇよ」
居間のテーブルを軽く片付けながら多希が指摘すると、八尋はブー、と口を尖らせた。
「せっかくのクリスマスだぞ? 楽しい方が良いじゃん?」
「楽しい方が良いけど、フツーにうるせぇの。てかさ、ヒロの頭に巻いてたって仕方ないだろ、それ。とっととツリーに巻けよ」
「そうだけど~。てかさ、ツリーってもっと早めに出しとくもんじゃね? 何で当日に出してんだよ」
「仕方ねぇじゃん。忘れてたんだよ」
「あのなぁ、こういうのは早め早めにやるもんなの! だからおれがこうして頑張ってるわけじゃん? 良いか、こういうのってちゃんとやらねぇと嫁に行き遅れるんだぞ?」
「それはひな人形だろ。それも、出しっぱなしにしてると、ってやつだろ」
耐えきれず口を挟むと、八尋と多希がほぼ同時に「そうだっけ?」と目を丸くする。ていうか、仮にツリーにも適用されたとして、さらにそれが『しまう方』ではなく、『出す方』の遅れだとしても、だ。ここには野郎しかいないのである。行き遅れるような『女』はいないのである。
「しかし、もしかしたら俺らが知らないだけで、西洋ではそういうジンクスがあるのかもしれないぞ」
真面目な顔で陽介さんがカットインする。あれ、もう食後のトレーニングは終わったんでしょうか。もう少しそっちの方で頑張っていただいててもよろしかったんですけど。
「そうか、そうだよな。こっちのひな人形でいうところの何かがあってもおかしくないよな」
「確かに。ひな人形が出しっぱなしNGだっつぅんなら、ツリーは出すのが遅れんのがNGの可能性あるよな」
「え」
まずい、多希と八尋が何か盛り上がって来た。
「で? ひな人形の方は嫁に行き遅れるって話だろ? てことは――」
「ツリーは婿に行き遅れる、ってわけか」
ってわけか、じゃないのよ。
そんなジンクスはないのよ。
ないよな、たぶん? 誰か教えてくれ。
それとも俺が知らないだけで実はある?! 存在する?!
「やっべ、大変だぞ多希! 急がねぇと!」
「だな! やべぇじゃん! 俺も手伝うわ!」
「よーし、力仕事は俺に任せろ! 何かあるか?!」
「ねぇわ! 陽ちゃんはそこでスクワットでもしてろ!」
「だな、陽介君はそこでおれらを応援してて! んで、ちゃんと幸路君が婿に行けるように神様に話つけといて! いまソッコーで飾り付けるからノーカンでヨロ、って!」
「待って。行き遅れるの俺?! ツリーの所有者じゃない? この場合!」
流れ弾である。
何でかわからんけど、このツリーのせいで俺が婿に行き遅れることになってしまった。
こうなると俺だって黙って見ているわけにはいかない。
「陽介さん、ちゃんとスクワットしながら神様の足止めをお願いします!」
自分でもよくわからないことを叫んで、俺もツリーの装飾に加わった。
酒? もちろんすでに一缶あけている。だからたぶんそのせいだと思う。
ユキタキクリスマス詰め合わせ 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa
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