ネクスト連載を追って下さってる方向け

新キャラ①宮島陽介をご存じの方向け

ユキタキが成立していないクリスマス※3人ver

「メリィィィィィクリスマァァァァァスッ!!」


 いまだかつて、こんなに『!』を感じる力強い「メリークリスマス」を聞いたことがあるだろうか、いや、ない。きっと本場フィンランドにもこんなに元気のよい「メリークリスマス」は存在しないんじゃないかとさえ思う。


 クリスマスのスーパーである。

 多希からお使いを頼まれた俺と陽介さんは、買い物カートを押しながら、メモを頼りに広い店内を歩き回っていた。


 そこへ、「いらっしゃいませ、ちょっと寄って行かれませんか」と声をかけられたのだ。見れば、そこのスーパーの新規会員獲得を狙った店内イベントのようで、広告の挟まったポケットティッシュ配りのスタッフが小さい子どもに風船を手渡している。それと、客寄せのためにだろう、『大声コンテスト』なる、どう考えてもスーパーでは不向きと思われる類のプチコンテストが開催されていたのである。


 ルールは簡単だ、測定機に向かって「メリークリスマス」と叫び、既定の数値を越えれば景品がもらえる、という。声をかけてきたスタッフの狙いは明らかに陽介さんだ。どう考えても高得点を叩き出しそうなマッチョである。無理もない。

 

 それで、まぁせっかくだからと陽介さんが挑んだ結果が、先刻の血管がブチ切れそうな音量の「メリークリスマス」というわけだ。んっんー、いや、ちょっといまのは本気じゃなかった、などとよくわからないことを言い出し、TAKE2を要求する陽介さんをその場に残し、俺は買い物の続きへ向かった。家で多希が待ってるし、近くで聞いていたら鼓膜が壊れる。


 そう思ってその場から足早に去ったわけだが、数メートル、十数メートル離れても余裕で聞こえてくる「メリークリスマス」である。スタッフさんの鼓膜は大丈夫だろうか。あの場に小さい子どもがいたら泣き出すかもしれない。



「……で、このサンタ帽子とトナカイカチューシャ、そしてお菓子をもらってきた、と」


 やや呆れ気味に多希が戦利品を見る。陽介さんは「そうだ!」とご満悦だ。どうやら現時点で1位だったらしい。本日の閉店時間までこの記録が破られなければ別途記念品が贈られるのだとか。へぇ。


「じゃ、陽ちゃんはサンタ被れ。トナカイは幸路さんな」

「おう、任せろ!」

「待て、どうして俺を巻き込むんだ」

「だって俺絶対やだもん」

「俺だって嫌だよ」

「じゃあサンタ帽こっちにするか?」

「やだよ」

「髭もあるぞ」

「何であるんすか!」


 それはセットになかったやつだろ!


「スーパーの中の100均コーナーに売ってた」

「何買ってんだよ!」

「だって俺ら全員髭生えてないし」

「生えたとしても黒い髭ですけど!」

「そうなんだ。だから買うしかないと思って」

「買うしかないわけないだろ! 責任もってそれも陽ちゃんが着けろ!」

「ちなみにトナカイ用の赤鼻も買っといた」

「おい悪化したぞ」

「絶対に嫌なんですけど!」

「ハハハ、楽しいな」

「楽しいのは陽ちゃんだけなんだよ!」

「責任もってアンタ全部着けろ!」


 結局。

 スタート時こそ陽介さんがトナカイカチューシャ、サンタ帽、サンタ髭、トナカイの赤鼻のフル装備だったが、酒が入るにつれ悪ノリが加速し、俺もカチューシャは着けたし、気付けば多希もサンタ帽被ってた。

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