第2話 案内妖精
気が付くと小さな部屋にいた。まるで旅行先で泊まった、ホテルの部屋みたいだ。
ベッドがあり、テレビ……じゃないな。あれはパソコンとモニターだ。それに大きなマイクにウェブカメラまである。何だこれ……よく見ると普段俺が使ってる環境より、ずっと良い設備じゃないか! ってそんなことより琴音は!?
「こんにちは!」
パッと光が弾け、目の前に小さな妖精が現れた。見覚えがある。事前登録の時に作った
長い金髪の妖精が宙に浮き、ニッコリと笑っている。
「……こんにちは」
「私は
ドンドン、ゴンゴン、ドガン! バガン! と激しいノックがした。この叩き方は琴音がキレてる時のノックだ。そもそもノックなのかこれ?
「ドアを開けてあげて。この部屋のドアは、部屋主のあなたしか開けられないの」
「秀ちゃん!」
ドアを開けた瞬間、琴音が勢いよく飛びついてきた。
俺は軽く下がって、琴音を受け止める。
「秀ちゃん。無事で良かった!」
「琴音も無事で良かったよ」
「ぐえぇ……」
琴音が握った手の中で、
「ちょっと! 離してあげて!」
「あ、ごめんごめん」
琴音がテヘッと舌を出した。全然反省してない時の琴音だ。
「……酷い目にあったわ。あんな物みたいに扱われるなんて初めてよ」
「で? お前らは一体何者なんだ?」
「私達は
「ここって……異世界なのか?」
「そうよ。享楽之神様がお創りなった世界。剣と魔法の世界。あなた達が思い描くようなゲームみたいなファンタジー世界よ」
「俺達は元の世界に帰れるのか?」
「ええ、帰れるわ。グランドクエストをクリアしたらね」
「グランドクエスト? 神力を集めるんじゃなくて?」
「もちろん一番の目的は神力を集める事よ。この世界はまだ未完成なの。だからこの世界を完成させ、維持する力が必要なの。なんの目的もなく、マンネリな配信をしていたら、いつまで経っても神力を集められないわ。配信には視聴者を熱狂させる物語が必要なのよ」
「グランドクエストをクリアしても、神力が集まらなかったらどうなるんだ?」
「神力が集まらなかったら……第二陣を転移させることになるわ。だから、あなた達はグランドクエストをクリアすることだけを考えればいいの」
「そのグランドクエストって何なんだ?」
「ゲームで言うところの、物語……メインストーリーってところかしら。この世界はあなた達が転移したことで、大きく動くことになるの。始めは小さな影響力だけど、それは大きな流れになって、この世界の国々や魔族を巻き込んでいくわ」
「思いっきりゲームっぽいな」
「そうよ。この世界は享楽之神様のゲーム盤なの」
「俺達はゲームの駒って事か」
「ええ。理解が早くて助かるわ」
「ねぇ。そのグランドクエストってどうやって進めるの?」
「いい質問ね。グランドクエストはこの世界に用意された物語よ。その物語を動かすには、初級のクエスト攻略から始まって、中級、上級、英雄級、神話級のクエストをクリアする必要があるわ。全てのクエストをクリアすれば帰還できるの。単純でしょ?」
「すげぇ大変そう」
「ねぇねぇ。ステータスがあるとか聞いたけど……」
「メニューを開くって思ってみて。思うだけでもいいし、難しかったらオープンメニューとか、メニューを開くとか言ってもいいわよ」
言われた通りにメニューを開くって思うと、目の前にスマホみたいな画面が現れた。アイコンが並んでいて、その下にステータスとか設定とか書かれている。
試しにステータスのアイコンを指で触れると、ステータス画面に切り替わり、そこにはヒットポイントなど、ゲームをやってると馴染みがある項目がズラリと並んでいた。
「設定画面で簡易表示をオンにしてみて」
言われた通りに設定画面に切り替えて、簡易表示のアイコンに触れる。すると視界の左上に、名前とレベル。そして三本のバーが現れた。
「緑色のバーはわかりやすく言うと、ゲームのヒットポイントよ。実際はシールドゲージなんだけどね。あなた達は目に見えない薄いシールドで覆われているの。そのシールドがある限り、人体に一定以上の損害がある攻撃を防いでくれるわ」
「一定以上?」
「全て防いじゃうと感覚がなくなっちゃうからね。細かい事は自分で試してみてね」
「秀ちゃん」
「ん?」
「これはどうかな?」
琴音に頬をつつかれた。ちゃんと感触がある。
「えいっ!」
今度はデコピンされたけど痛くない。
「なんか固い」
琴音が指をフーフーと息を吹きかけている。
「攻撃した方は、シールドの効果がないのか」
「これってさ。つまずいて転んで石に頭をぶつけたら、死んじゃうかも」
「どんだけドジな状況だよ。うーん、攻撃に対してのみ有効って事なのかな? それでバーがなくなったら?」
「人体にダメージが入って、怪我をするし、場合によっては死んじゃうわよ」
「シールドがあるのは配信上の配慮って事か」
「そうよ。グロテスクな配信は視聴者に見せられないし、動画配信サービスからアカウント停止、最悪だと退会処理されちゃうからね」
「シールドってオフにできる?」
「え? マゾなの? 変態なの?」
なぜか案内妖精にドン引かれた。
「一応特殊な趣味の人向けにオフにできるけど、外に出る時はオンにしてね」
「何この失礼なやつ! 握り潰しちゃおうかな?」
「あ、あなた見かけによらず過激ね! シールドの下の黄色のバーがスキルポイントで、ピンクのバーがマジックポイントよ。それぞれスキルや魔法を使うと減るわ。もちろんバーがなくなったら使えなくなるからね」
「マジでゲームみたいなシステムだな」
「秀ちゃん! アイテムボックスもあるよ!」
アイテムボックスのアイコンをタップすると、中には初期装備らしき武器や防具のアイコンがあった。武器は剣、槍、杖、弓、短剣。防具は皮の鎧とローブ。それと初級ポーション。これは回復薬か。最後に金貨と銀貨。この世界の通貨かな?
「これ、どうやって使うんだ?」
「アイコンに触れてみて」
「こうかな」
試しに剣のアイコンに触れると、目の前に鞘に入った剣が現れた。
「うお!」
俺は慌てて剣をキャッチする。
「あっぶねぇ」
「刀ってないの?」
琴音も剣を取り出して構えているが、どうもしっくりきてない様子だ。
「俺達子供の頃から剣術やってるんだ。刀があるといいんだけど」
「さぁ? チュートリアルで教える事じゃないわね」
って事はどこかにあるか、造れるんだな。
「収納はどうやるんだ?」
「アイテムボックスに触れさせればいいわ」
「こうか。おっ! 入った」
「ねぇ。やっぱりモンスターを倒すとレベルが上がるの?」
「ええそうよ。レベルが上がると各ステータスの上昇の他に、ステータスポイントがもらえて、筋力や防御力等に振れるわ。筋力に振れば、攻撃力やスキルポイントが上がって、防御に振ればシールドや防御力が上がるわ。ただ……注意して欲しい事が一つあるの」
「なーに?」
「例えば筋力に振れば、強制的に肉体改造されて、強い筋肉痛に襲われるわ」
「えええ! ムキムキマッチョになっちゃうの?」
「ボディビルダーみたいに、見せるための筋肉じゃないから、心配しなくていいわよ」
「なら良いけど」
「……多少腹筋割れるかもだけど」
「えええ!」
「俺はどんな琴音でも大好きだぞ」
「秀ちゃん……」
「痛みはすぐに治まるけど、ステータスを上げる時は、安全な所でしてねって話なんだけど。続けていい?」
「あ、はい」
「剣を振るえば剣技が上がり、技――スキルのレベルが上がったり、新しいスキルを閃いたりするわ」
「どういう事だ?」
「どうやったらうまく剣を振るえるか、スキルはどうやって使うか。そういった事をこの世界が教えてくれるのよ。脳に使い方を定着させるとか、インプットさせるって言えばわかるかしら? そして時には新しいスキルや魔法を定着せる。まるで自分で閃いたみたいにね」
「何それ怖い」
「口で説明してもわからない事もあるから、実戦で確認してみて」
「配信はどうやるの?」
「戦いながらは無理だろ?」
「頭にカメラ付けてもブレブレになっちゃうよね」
「カメラは私達よ。私が見たもの聞いたものが、動画ファイルとして保存されるの。ライブ配信だってできるわ」
「カメラの妖精だった?」
「その言い方がやめて。あなた達は二人で一つのチャンネルだから、ライブ配信はどっちかの妖精が担当する事になるわ。ライブ配信する時に選んでね」
「はーい」
「配信作業はこの部屋でできるわ。琴音ちゃんは自分が転移した部屋ね。あなた達一人一人に部屋が与えられていて、各部屋で配信作業が出来るわ。その部屋だけ、剣と魔法の異世界じゃないの。もらったウルトラチャットでネット通販もできるわよ。購入した物はそのままアイテムボックスに転送されるわ」
「どんな回線だよ……俺達の世界と繋がってるってことだよな?」
「やった! って私達ウルチャもらった事ないんだった……」
ウルトラチャット。視聴者が動画配信サイトに課金して、直接配信者にお金を渡せるシステムだ。三割くらいは手数料で引かれるけどな!
「もらえるように頑張らないとな」
「そうだね!」
「それと各部屋はセーフゾーンになってて、殺傷できない結界が貼られてるから、安心してね」
「安心して配信できるって事か」
「寝る時も安心だね」
「さて、最後にクエストを受けるわよ。ここはあなた達プレイヤーの拠点。冒険者ギルドよ! グランドクエストを進めるためにも、生きていくお金を稼ぐにも、まずはここでクエストを受けるのが基本だよ!」
「この建物に百人もいるの?」
「いいえ。プレイヤーは三つの都市に分かれて転移しているの。ここには三十三人のプレイヤーがいるわ」
「同じ場所だと同じような配信になっちゃうからか」
「そうよ。さぁ行きましょう!」
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カップル配信者、異世界で頑張る!~幼馴染と仲良く冒険しているだけなのに、なぜか美少女配信者からイラつかれる~ 富浦 @tomiura
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