過保護な裏方モブの脚本改変〜死ぬ運命の幼馴染勇者を、神ごときっかけ「接待ツアー」にご招待。魔王も四天王も俺の信者になったので、彼女は世界一安全に無双するようです〜
第5話「悪徳令嬢の奴隷契約と、逆転のオーナー権」
第5話「悪徳令嬢の奴隷契約と、逆転のオーナー権」
「見てヴェイン! この銅の剣、セールで半額だったの! これなら予算が余るから、みんなで美味しいご飯が食べられるよ!」
宿のロビーで、セレスティアが安っぽい剣を嬉しそうに掲げていた。
刃こぼれ寸前の中古品。
防御力皆無の革鎧。
僕の視界には、その装備を身に着けた彼女が、最初のダンジョンのゴブリンごときに脇腹を刺されて出血多量になる『バッドエンドの分岐』が鮮明に見えてしまった。
(……駄目だ。こんなゴミ屑を彼女に装備させるわけにはいかない)
「うん、買い物上手だねセレス。……でも、少し休憩してて。僕、ちょっと用事を思い出してさ」
「え? うん、わかった。行ってらっしゃい」
無邪気に手を振る彼女を置いて、僕は街の富裕層エリアへと向かった。
影の中からは、クロエが音もなく追従してくる。
◇
大陸最大の商会『黄金の薔薇(ゴールデン・ローズ)』。
その支店長室の扉を、僕はノックもせずに開け放った。
「何ですの? 予約のない貧乏人はお帰りになって」
豪奢なデスクの奥で、書類に目を通していた女性が顔を上げる。
縦ロールの金髪に、豊満な肢体を包む高級ドレス。
扇子で口元を隠しながら蔑むような視線を送ってくる彼女こそ、この商会の実質的な支配者、ミレーヌ・ド・ラ・ヴァリエールだ。
「勇者パーティの代表として商談に来た。スポンサー契約の提案だ」
「勇者? ああ、あの田舎娘のこと?」
ミレーヌは興味なさそうに書類をめくっていたが、ふと何かに気づいたようにニヤリと口角を上げた。
「……いいえ、お待ちになって。いい話かもしれませんわ」
彼女は引き出しから分厚い契約書を取り出し、デスクの上に放り投げた。
「装備一式、ポーション、活動資金。全て当商会が提供しましょう。……ただし、この『専属マネジメント契約書』にサインをいただけるなら、ですが」
僕は契約書の内容を一瞥する。
そこには、あまりにもふざけた条項が並んでいた。
『勇者が獲得した報酬の9割を商会へ納めること』
『勇者の肖像権、および関連グッズの権利は全て商会に帰属する』
『万が一、商会への返済が滞った場合、勇者は商会が指定する施設(鉱山、あるいは売春宿)にて強制労働に従事すること』
要するに、奴隷契約だ。
世間知らずな田舎娘を借金漬けにし、骨の髄までしゃぶり尽くそうという魂胆が見え透いている。
「……勇者を、使い捨ての商品にするつもりか?」
「あら、人聞きの悪い。田舎娘に『英雄』という付加価値をつけて売り出すのですわ。光栄に思いなさい? 金のない正義なんて、一番儲からないゴミですもの」
ミレーヌは勝ち誇った顔で笑う。
彼女の胸元から、太く醜悪な『黄金色の糸』が伸びていた。
その糸は契約書を通じて、未来のセレスティアの首輪へと繋がろうとしている。
「サインしなさい。さもなくば、この街の全ての武器屋に手を回して、あなたたちに棍棒一本売らせないようにしてもよろしくてよ?」
完全な脅迫。
彼女は確信しているのだ。金と権力を持つ自分が、貧乏な冒険者ごときに負けるはずがないと。
――普通の人間なら、ここで絶望するだろう。
だが、僕は「普通」じゃない。
「……ゴミ、か」
僕の中で、冷たい怒りのスイッチが入った。
「君の目は節穴だな、ミレーヌ嬢。……君は今、世界で一番、怒らせてはいけない相手に喧嘩を売った」
「なんですって?」
「その腐った商魂ごと、買い叩いてやるよ」
僕はゆっくりと彼女に歩み寄る。
衛兵が剣を抜こうとするが、背後の影からクロエが殺気を飛ばし、一瞬で彼らを委縮させて動きを封じた。
「な、何よ……暴力で解決するつもり? 私が叫べば、私兵団が……」
「必要ない」
僕は彼女の目の前で、奴隷契約書を指先で弾いた。
そして、彼女の心臓から伸びる『金への執着』と『支配欲』の糸を両手で鷲掴みにした。
「君にとっての『価値』を再定義する」
ジョキンッ。
乾いた音が響き、ミレーヌの体がビクンと跳ねた。
彼女の中で「金こそが全て」という価値観が粉々に砕け散り、巨大な空白が生まれる。
僕はその千切れた糸の端を掴み、僕自身の小指へと強引に結びつける。
因果の書き換え。
【搾取する喜び】を、【貢ぐ快感】へ。
【金の亡者】を、【ヴェイン専用の財布(ATM)】へ。
「君の商会の総資産、そして君自身の人生……。その全ての価値は、たった今から『僕と勇者のために使われること』でのみ決定される」
僕はデスク越しに彼女の顎を持ち上げ、至近距離で瞳を覗き込んだ。
「違うか? 奴隷になりたがっているのは、君の方だろ?」
「あ……あぁ……ッ!」
ミレーヌの瞳孔が開く。
高慢だった表情が溶け、頬が紅潮し、荒い息遣いが部屋に響く。
彼女の脳内で、これまでに貯め込んだ莫大な資産が、すべて「ヴェイン様に捧げるための供物」に見え始めたのだ。
「私……私は……間違っていましたわ……!」
ミレーヌはガタガタと震えながら、デスクを回り込んで僕の足元に崩れ落ちた。
そして、あろうことか僕の靴先に額を擦り付け、恍惚とした表情で見上げてくる。
「金貨なんてただの金属! 契約書なんて紙屑! ああんっ、私の全ては……貴方様という『真の支配者(オーナー)』に管理されてこそ輝くのです!」
「わかったら、その汚い契約書を処分しろ」
「はいっ! 喜んでぇぇ!」
ミレーヌは自ら用意した奴隷契約書をビリビリに引き裂き、紙吹雪のように舞い散らせた。
「倉庫にある最高級のミスリル装備、全属性耐性のマント、ポーションの在庫全て……今すぐ勇者様へ献上させますわ! もちろん、代金なんて不要! むしろ受け取ってください! 私の汚れた資産を、貴方様のために浄化させてくださいまし!」
「助かるよ。……ああ、それと」
僕は興奮して頬を染めるミレーヌの頭を踏み……いや、軽く撫でてやる。
「君自身も、僕たちの旅に同行してもらうよ。専属の『財布』が必要だからね」
「はいっ! 喜んでお供しますわ、私のご主人様(マスター)! 地獄の果てまでついて行って、破産するまで貢ぎ続けますわ!」
資金問題、解決。
装備問題、解決。
ついでに、便利な財布(ミレーヌ)も確保した。
宿に戻ると、セレスティアが心配そうに出迎えてくれた。
「遅かったね、ヴェイン。大丈夫だった?」
「うん、すごくいい人に会えたんだ。君のファンだって言って、装備を無償で提供してくれるって」
「えっ、本当に!? 世の中には親切な人がいるんだねぇ」
セレスティアは目を輝かせている。
その背後で、荷車に山積みの最高級装備を運び込みながら、ミレーヌが恍惚の表情で僕にウインクを飛ばした。
彼女の胸には、僕への『絶対服従』を誓う首輪(に見える幻覚の糸)がしっかりと繋がれていた。
セレスティアの笑顔は守られた。
悪徳商人が一人、喜んでその身を破滅の道(=勇者への無償奉仕)へ投げ出したことによって。
(第5話 完)
次の更新予定
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