1-16 ダンジョン庁からの依頼

ルカが日探に入学をしてから、早くも一週間が経過した。

探索者としての知識がないルカにとっては、ほぼ全てが新たに知る知識ばかりであり、まさしく目が回りそうな毎日だった。

それでも、事情を理解した同級生は、快くルカをサポートしてくれるため、なんとか乗り切ることができていた。


そして、授業が始まってから最初の土曜日。

休日ではあるものの、ルカは坪井から呼び出しを受けて学校に向かっていた。

坪井から指定された教室のドアを開けると、そこには加護と坪井、それから初めて見る老人の三人が集っていた。


「来たか、ルカ。休日に呼び出してすまないな。」

「いえ、大丈夫です。」


促されるまま、三人の対面に座るルカ。

真剣な話だと悟ったルカは、頭の上でくつろいでいたサフィアを机の上に下ろす。

サフィアは機嫌を損ね、抗議するような目でルカを睨むが、ルカはそれをあえて無視した。

そんな二人のやり取りを見ていた老人が笑顔を浮かべながら口をひらく。


「ふふふ。噂には聞いていたが、実際に目の当たりにすると驚くべきことだな。随分と仲良くやっているようだ。」

「は、はぁ・・・。」


老人の言葉に、ルカは曖昧な返事でお茶を濁す。


「あぁ、すまないな。私が誰かわからないと話しづらいだろう?私は森という。一応、この学校の理事長を務めている。」

「え、理事長!?」


驚くルカに、横から加護が捕捉する。


「さらに言えば、ダンジョン庁の役員だ。私の直属の上司でもある。」

「な、なるほど・・・。」


想像よりもずっと権威のある人物で、ルカは若干腰が引けていた。

ルカの様子を見て、森は人の良さそうな笑みを浮かべる。


「そう身構えなくても大丈夫だよ。」

「は、はぁ・・・。それで、今日は一体・・・?」

「ふむ、そうだね。折角の休日だ。若者の時間を拘束するわけにもいかんな。さっさと本題に移ろうか。」


森は仕事の顔になり、ルカとサフィアを交互に見る。


「今日はね。ダンジョン庁として、きみに依頼をしに来たんだよ。」

「依頼・・・ですか?」


基本的に、探索者は自由を好む。

自らの判断、自らのタイミングでダンジョンに挑み、成果を上げることが基本である。

しかし、ダンジョン庁や、そのほかの個人を通して、依頼を受けるケースも存在する。

しかし、基本的に依頼は中から上級探索者が受けるものだ。

話の先が読めず、ルカは困惑していた。


「知っての通り、我々ダンジョン庁は、探索者人口の増加及び実力の底上げを目的の一つとしている組織だ。実力のある探索者が我が国に増えれば、それだけ国力が上がることを意味しているからね。」


森の説明に、ルカは頷きを返す。


「その一環で、若者への探索者の知名度向上を目的として、DuTube配信を奨励、補佐しているんだ。きみのクラスメートの安藤未美あんどう みみくんも、我々のサポートの上で配信活動を行っているんだ。」

「そうだったんですね。」


つまり、ビビアンこと安藤未美あんどう みみは、個人のDuTuberではなく、国家公認のDuTuberであったわけだ。

とはいえ、国が積極的に広報を行ったわけではなく、現にルカはそのことを全く知らなかった。

そのため、彼女のDuTuberとしての実績は、彼女の努力と魅力によるものだろう。


「実際に数名の探索者DuTuberをサポートしてみてわかったんだが、現状期待以上の効果が得られているんだ。」

「期待以上の効果?」

「特に安藤くんなどは、非常に若者ウケがいい。実際、彼女のおかげで来年の日探の受験希望者は大きく増加すると予想されている。つまり、探索者の裾野を広げる効果がかなり大きいとされているんだ。」

「なるほど・・・。」


更に、と森は付け加える。


「一部の探索者は、その実力を動画や配信の中で示すことで、市民へのアピールと他国への牽制も兼ねることが出来ている。これほど強い探索者が、市民を守るために戦っている、ということを広めることは、思っていた以上に良い影響があるようなんだ。」


森の言うことは納得できる。

確かにルカもDuTubeはよく見るようになっており、人気の探索者の配信は憧れや安心感を抱くことも多い。

しかし、ルカとの関連性が一向に見えてこない。

少しヤキモキしていると、森は笑顔を崩さずに告げる。


「きみの相棒。サフィアくんは非常に希少で、強力な魔物だ。そして、そんな魔物が、人間である入間くんと心を通わせている。その事実は非常にセンセーショナルなのだ。だからこそ、入間くんとサフィアくんには、是非DuTube配信を行ってほしいと考えている。」

「え!ぼくとサフィアが、DuTuber!?」


森の依頼は、ルカの予想を大きく超える内容だった。

ルカは咄嗟に、同級生であり推しでもあるビビアンの配信を思い出す。

自分に彼女のようなことが出来るだろうかと考え、即座に無理だと結論を下す。


「ぼくには難しいかと・・・。」


言葉を濁し、断りを入れようとした矢先に、加護が口を挟む。


「サフィアがDuTubeの配信に登場することで、その存在は世間的にも周知の存在になる。そうなれば、ダンジョン庁としても正式な認可をするほかない。結果として、サフィアはコソコソ隠れる必要はない、というのは君たちにも大きなメリットになると思う。」


これまで、気怠そうにしていたサフィアは、加護の言葉を聞いて急に起き上がり、加護とルカを交互に見る。

サフィアの行動に一同が驚いていると、サフィアはルカの手を甘噛みして、ぐいぐいと引っ張るような動作を見せた。


「まさか・・・。サフィア、お前・・・。DuTube配信に乗り気なのか?」


ぴぃ!と異性のいい声をあげるサフィア。

窮屈なケージに押し込まれることが、よほど嫌だったのだろうか。

結局、サフィアの押しに負けたルカは、森の依頼を承諾することとなった。

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現代ダンジョンは、想像よりも過酷だった。 鹿松 @PineDeer

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