1-15 初ダンジョンを終えて
「はぁぁ!?初日から裏ダンジョンに潜ったぁ!?」
ルカの部屋は、リョウこと佐々木遼太郎と隣同士だった。
リョウは所用で寮を留守にしていたため、寮での会話は今日が初めてとなる。
早速交流のため、談話スペースで、今日の出来事を報告した結果の反応が前述のものである。
「う、うん・・・。やっぱり、やばい・・・?」
薄々感じていた違和感について、確認するように問いかけると、リョウは半ば呆れたような表情になる。
「やばいなんてもんじゃねぇよ。後藤先生だって、ソロでは潜れないらしいぞ、あそこは。」
ルカはまだ、後藤の実力を把握してはいないが、教師が苦戦するダンジョンということで、その脅威度の片鱗は感じることができた。
「そうなんだ・・・。確かに、罠とかいやらしかったもんなぁ・・・。」
ルカの感想に、リョウは興味津々で食いついた。
「まじか、どんな罠があった?」
「えっとねぇ・・・。」
そうしてダンジョンに関する情報を交換する2人。
和気藹々と会話をしながらも、ルカはなんとも言えない不思議な感覚を覚えた。
元の世界の感覚が抜けきっていないルカにとって、このようなファンタジーな会話を友人と白熱させるのは独特のむず痒さを覚えるものだった。
しかし実は、両者の会話は絶妙に噛み合っていない点がある。
サフィアがあまりにも優秀だったため、ルカは魔物に対して一切の脅威を感じることができなかった。
サフィアの実力を知らないリョウは、ルカが魔物に恐怖を覚えなかったのは坪井の力によるものと誤認している。
両者の認識が一致するのは、もう少し先の話になる。
同じ頃。
校長室に、坪井と後藤の両名が呼び出されていた。
2人を前に、理事長の森と、校長の有馬が眉間に皺を寄せていた。
「報告を聞いたぞ・・・。入間くんを、初日に裏へ連れて行ったそうだな・・・。」
2人の迫力に後藤は縮こまっているが、坪井はどこ吹く風である。
「後藤。貴様は知っていたのか?」
有馬が青筋を額に浮かべながら詰問する。
「いえ・・・。俺は、伊藤さんの座学と聞いてました・・・。」
「その伊藤だが、後藤からの伝言で、カリキュラムが急遽変更になった、と聞いたそうだ。」
後藤は目を丸くし、激しく動揺した。
「い、一体誰がそんな!?」
有馬は顎で坪井を指し示す。
一瞬ぽかんとした後藤は、その顔をみるみる赤くする。
その反応で状況を察した森は、真剣な目を坪井に向ける。
「坪井くん。きみは、入間くんがどれほど重要な人物か、わかっているはずだ。」
「だからこそですよ、森さん。」
坪井は自身のペースを崩さない。
有馬や森相手にも、臆さずに主張を続ける。
「あの鳥は異常だ。そして、俺の見立てが間違ってなければ、ルカ自身もやべぇ。だからこそ、手っ取り早く確認するのがベストだと判断した。」
両者は厳しい表情で睨み合う。
しかし、最終的には森が折れ、深いため息を吐いた。
「まぁ、きみを採用した私にも責任はある、か・・・。仕方ない。もう少し建設的な話をしよう。君の目から見た、入間くんと彼の鳥・・・えぇと、サフィアだったか。彼らの印象を聴かせてくれ。」
「まず、サフィアについて。印象は概ね加護と同じだ。ただし、いくつか追加の懸念事項が。」
「加護の報告だけでも頭が痛いのに、その上だと・・・?」
その言葉に有馬が頭を抱えるが、坪井はそれに構わず続ける。
「加護の話から予想してた実力と、若干のズレがある。それも、上振れの方向だ。恐らくだが、加護が見た時よりも成長してる。」
「ふむ、だが加護くんの話では、サフィアは生まれたてと言う話だった。成長と共に強くなるのは、むしろ自然ではないのかね?」
「いや、恐らくそれだけじゃあない。」
坪井は首を横に振る。
「サフィアは、ダンジョンを出たあとでも、成長後の力を維持していたように思う。」
坪井の発言は衝撃的だった。
ダンジョンを一度出れば、それまでに得た魔力による強化はリセットされるというのが常識だ。
しかし、坪井の報告は、その常識に対して真っ向から対立する内容である。
もし仮に、ダンジョンに入れば入るほど強くなる性質が認められれば、それだけで入間琉華はS級に相当する戦力を得ていると言える。
「なるほど・・・。確かに衝撃的な内容だな・・・。では、聞くのが怖いが、入間くんの方の評価を聞こうか。」
「ルカは典型的なドシロートだ。正直、普通の探索者としての才能は皆無と言って良いだろう。」
だが、と前置きをして坪井は言葉を続ける。
「あいつは、魔物への恐怖だったり忌避感だったりが、極端に薄い。サフィアのことを、本気で単なる赤い雀と思ってる節すらある。そんな奴だからこそ、サフィアが懐いているのかもしれないが。」
ここで坪井は一度言葉を切る。
そして続いて強烈な一言を付け加える。
「俺は、サフィアがルカに懐いたのはサフィアの特性や性格によるものではなく、ルカの能力だと推測してる。魔法というよりは、職業の能力のそれに近い感覚かもしれん。もし仮にその推測が当たっていた場合、第二第三のサフィアが現れないとも限らない。もしそうなれば、奴は間違いなく、S級になるべき存在だろう。」
坪井の推測は、その場の一同から語彙を奪うのに充分過ぎるほどの威力を秘めていた。
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