異世界転生した理系～生成ＡＩスキル無双。敵に直接の危害は加えない。周りの環境を変えるだけさ～

　ガラクタ同然の剣を手渡された。

　いままで剣を振ったことはない。

　でもやるしかない。

　森を進むとドラゴンが降りて来た。

「交渉したい！」

「我が子である卵を奪っておいて、その言い草は許せん」

　言葉は通じるが、怒りの理由も解る。

「卵は俺が取り返す。それで待ってくれないか」

「お前なら、地べたを這いずる虫と交渉するのか？　卵がここにあり謝るなら、苦しませずに食ってやる」

　どうやら駄目そうだ。

　みんなが震えているのが判った。

　カチカチと歯が鳴る音も聞こえる。

　でも、逃げ出す仲間はいない。

「殺すなら俺だけにしてくれ」

「人間は皆殺しだ。そう決めた。一度決めたらやり遂げるのがドラゴン」

「頼むよ！　俺が盗んだわけじゃないけど、謝るから！　ごめんなさい！」

　俺は土下座した。

「ふん、無駄だ」

「パイソン、だめ！」

「そう、一緒の約束」

「どこまでも一緒」

「みんな！　せめて一太刀！」

　仕方ない。

　俺達は剣をドラゴンの脚に叩き込んだ。

　剣は弾き返され、手が痺れた。

　だが、力と息の続く限り。

「ウロコ１枚でも。ウロコの隙間に……。くっ、入らない」

　ウロコを剥がそうと隙間に剣を入れようと全力を出したが、入らない。

　だが、負けるものか！

「はぁはぁ……」

「この！　この！　このトカゲ野郎！」

「いい加減に！　キズのひとつも！　付いたら！　どう！　はぁはぁ……」

「くっ、諦めない！　まだまだぁ！」

　みんなの動きが止まった。

　手がもう上がらない。

「何かしたか？　所詮虫よ」

　そして彼女達がよろよろと近づいて順番に俺にキス。

「生まれ変わっても一緒」

「そうね、約束」

「やぶったら、殺す」

「破ったら、呪ってやる。さぁ、齧りついても倒す」

　そうだな。

　歯が立たないとは解ってはいるが、俺達はドラゴンに齧りついた。

「交渉したということで、苦しませずに殺してやる。死ね！！！　ガァァァガオーン！」

「がふっ……」

　俺は血を盛大に吐いた。

　苦しい。

　彼女達は倒れている。

　せめて手を繋ごう。

　俺は歩こうとして、ゆっくりと倒れ始める。

　涙が出た。

　スローモーションになった世界で心臓が止まったと把握した。

　全員がこの状態だと思う。

　死んでたまるかぁ！！

　どうしたら良い？

　【生成ＡＩ】に尋ねても無駄だろうな。

　生き返りの質問に答えが返ってくるとは思えない。

　ゆっくりと地面に近づく。

　倒れきったら死ぬ。

「【生成ＡＩ】、耐衝撃念動シャツ.pyを細胞念動シャツ.pyに修正しろ」

―――――細胞念動シャツ.py――――――――――

# 800h～18ebfh に"細胞の思念を受け取って、細胞の動きを念動で助けろ"を書き込む

for port in range(0x800, 0x18EBF): # 18EBFh まで

　　　　io_port_write_command_str(port, "細胞の思念を受け取って、細胞の動きを念動で助けろ")

――――――――――――――――――――――――

「【Ｐｙｔｈｏｎ（パイソン）ＥＸＥ化（魔力回路化）】細胞念動シャツ.py」

　魔道具のプログラムを書き換えた。

　倒れて、スローモーションが解除され。

　意識が鮮明になった。

　手をついて、急いで起き上がる。

　いつもより調子が良い。

　絶好調だ。

　胸に手をやると鼓動がない。

　どうやら心臓が破裂したらしい。

　他に血管のあちこちが破れた。

　でも、傷を塞ぐという細胞の思念に同調した念動がそれを成している。

　そして、心臓の代わりにも念動が血液を送っている。

　アンデッドというより、魔導サイボーグだな。

　個々の細胞に別々の思念があるなんて驚きだ。

「なぜ生きている？　即死の竜言語魔法だぞ」

　彼女達も蘇生したい。

　速攻で方を付ける。

　予備の耐衝撃念動シャツを２枚出す。

「【生成ＡＩ】、耐衝撃念動シャツ.pyを耐液体念動シャツ.pyに修正しろ」

―――――耐液体念動シャツ.py―――――――――

# 800h～18ebfh に"液体を止めろ"を書き込む

for port in range(0x800, 0x18EBF): # 18EBFh まで

　　　　io_port_write_command_str(port, "液体を止めろ")

――――――――――――――――――――――――

「【Ｐｙｔｈｏｎ（パイソン）ＥＸＥ化（魔力回路化）】耐液体念動シャツ.py」

　書き換えた。

「【生成ＡＩ】、耐衝撃念動シャツ.pyを右拳に１点集中する１点集中念動シャツ.pyに修正しろ」

―――――１点集中念動シャツ.py―――――――――

# 800h～18ebfh に"右拳の先を破壊"を書き込む

for port in range(0x800, 0x18EBF): # 18EBFh まで

　　　　io_port_write_command_str(port, "右拳の先を破壊")

――――――――――――――――――――――――

「【Ｐｙｔｈｏｎ（パイソン）ＥＸＥ化（魔力回路化）】１点集中念動シャツ.py」

　書き換えた。

　新たな２枚を重ね着した。

　そして、あんぐり口を開けているドラゴンの口の中に飛び込む。

　筋肉細胞を念動が補助してるから、跳躍スキル並みのことができる。

　胃の中に入った。

　重ね着した耐液体念動シャツが胃液を寄せ付けない。

「１点集中、念動パンチ！　１０万倍パワーだぜ！」

　ドラゴンの胃に穴が開いた。

　胃酸がドラゴンの肉を溶かす。

　ドラゴンの血が胃の中に溢れた。

「おっ！」

　俺は凄い勢いで飛ぶように動かされた。

　ドラゴンが血と共に俺を盛大に吐いたようだ。

　俺は胃液と血の海に転がっていた。

　生き物は胃が許容範囲を越えると吐く。

　止められない生理現象だ。

　彼女達の耐衝撃念動シャツを細胞念動シャツに改造。

　彼女達がピクピクと動いた。

「頼む、生き返ってくれ！」

『これは、驚いた！』

　この声はたしか、俺を転生させた神。

「彼女達を生き返らせてくれ。頼む！」

『心配するな、死んではおらん。後遺症なしに生き返るはずじゃ。ところで、そなた神になったな』

「へっ？！」

『よく考えたら解るはずだ。そのシャツの魔道具の消費魔力は膨大。１０万×３もの魔道具を起動しておるのだからな』

「えっと、俺は腐っても元貴族だから、魔力量は多い」

『じゃが、１０秒が良いところじゃな』

　確かにそうかも。

　死んで生き返った時点で神になったのか。

　神に成れたから行き返ったのか。

　たしか生き返って神になる神話も存在した。

　そんなことはどうでも良い。

「そうなると彼女達も神に？」

『いや、彼女達は候補に過ぎない。彼女達のシャツの魔力はお前が供給しておる。そもそも、魔力とは神の精神体なのだからな。想いに応える存在など神以外におらん。お前は魔力がほぼ無限じゃ』

「魔力ってそういうエネルギーなんだな」

『お前はともかく彼女達を大事にするなら、気を付けるがよい。死の影が今も忍び寄っておる』

『余計な忠告をするな。協定違反だ』

　この声は知らない。

「どちら様で？」

『我はこの星を体としている星神』

「あんたが、４人を殺そうとするのか？　もしかして俺も殺そうとしてる？」

『ふむ、お前も神の端くれだから教えてやる。星が体である我は環境汚染と採掘が痒くてたまらん。だから、文明の発展を阻止して、偉人は殺す』

　うん、無茶苦茶な理屈だが、良く考えるとなんとなく筋は通っている。

　俺達はダニ、もしくは肌に生息する菌。

　普段は気にしないが、痒かったりすると薬を塗ったり、なんらかの手を打つよな。

　それを非難するのはどうしたものか。

『わしら神は文明の発展と人類の進化を願っている』

『気に食わんが、我と神々は対立しておる』

　ならば、両立するようにしたらいいだろう。

「提案がある。文明と人間の進化を加速して、環境汚染と採掘を辞めさせる。これでどうだ」

『わしに異存はない』

『我も異存はない。彼女らを殺そうとする意思は持たないでやろう』

「では約束だ。効果が出るのにどれぐらい掛かるか判らんが、良いな？」

『神にとって年月は関係ない』

『我も関係ない。だが少しずつでも改善が見られなければ、協定は破棄だ』

　神達が去った。

　俺はスクリプトから貰った救難信号魔道具を使う。

　光の玉が空高く浮かび、１０分ほどで、冒険者が到着した。

　さて、大変な仕事を受けちまったよ。

　納期に余裕があるのは良いが、難しい問題だ。

　それに魔道具ギルドマスターのジャバと賄賂王もなんとかしないと安心できない。