「魔道具王パイソンと助手の４人、そなたらにドラゴン討伐を申し付ける」

　俺は日本からの異世界転生者のパイソン・ジェネレーティブ、１８歳。

　持っているスキルは２つ。

　【生成ＡＩ】と【Ｐｙｔｈｏｎ（パイソン）ＥＸＥ化（魔力回路化）】だ。

　２つのスキルはユニークスキルだ。

　準チートスキルだな。

　元貴族の庶子で、浮浪児になって、魔道具職人となって、上手くやっている。

　というか、いま思うに、上手くやり過ぎた。

　目の前の玉座にいるのは俺が暮らしている国の王。

　こいつの二つ名は『賄賂王』。

　関係ないから無視してたが、それが仇となったか。

　だが、考えてみてくれ。

　前世がへっぽこプログラマーだった俺が、殺人などできるわけはない。

　そんなメンタルの持ち合わせなどない。

　いまも元貴族の魔道具職人。

　殺しとは無縁だ。

　断ればどうなるか。

「返答は？　拒否したら王を僭称した罪で処刑だな」

　それは他人が勝手に付けた二つ名で、俺が名乗ったわけではないという言い訳は無理だろうな。

　断れないらしい。

「ふはは、その４人の娘を差し出せば、許してやらんこともない。まあ、魔道具を二度と作らないように魔法契約もしてもらうがな。わはははっ」

　そう言ったのは魔道具ギルドマスター。

　くっ、ギルマス、お前の仕業か！

　理由ならいくつも浮かぶ、まず俺の助手をしてる浮浪児時代からの仲間の４人。

　ベイシーは赤毛の肉感的な女性。

　死語であるボンキュッボンが似合うここまでの女性も珍しい。

　アセラは紫掛かった黒髪のロングヘア―で、スレンダーのモデル体型。

　顔も超絶美人だ。

　コーベルは緑色の髪のタレ目が色気ムンムンの美人。

　フォルトゥナは金髪で少し吊り目がちの悪役令嬢系の美人。

　みんなが美人なのは俺が美容と整形魔道具を開発したからだ。

　幼い頃からそれらを使っていれば美人になるのは当然。

　異世界での美容と整形魔道具は肉体を急激に変化させるのではなくて、徐々に理想の体へ成長させて行く。

　でないと副作用が怖いからだ。

　運動と食事で体つきが変わるのを魔道具で行っただけだ。

　男達が目をつけるのは仕方ないことだが、ギルマスは許せん。

　良い歳して、見境のない奴だ。

　彼女達を手に入れるのと、魔道具を安く便利に良い物をという俺の考えが気に食わないのだろうな。

　俺を魔道具ギルドの次期マスターに推す職人の声もある。

　俺をギルドに登録させまいと、妨害工作をしてたのを知っている。

　ギルドに加入しなくても困らなかったから、無視してたけど。

　貴族達の大半からそうだそうだの声が上がる。

　討伐に行くしかないか。

「王命、承ります」

「そうか。だそうだ。ジャバ、いかがする？」

「パイソンが死んで、何人か娘が生き残ったら、討伐失敗の責任でぐふふ……」

「好きにせい。付け届けを忘れるな」

「それはもう」

　茶番だな。

　この芝居が終わって王城の廊下を歩いていたら、隻眼のいかにも戦士という男と出会った。

「わしは冒険者ギルドのマスターのスクリプトだ」

「どんな用？」

　言葉がとげとげしいのは勘弁してほしい。

　こんなことがあったのだから。

「手短に言うとジャバの野郎をぎゃふんと言わせたい。だが、すまん。ドラゴン討伐隊は編成できない。ＡランクやＳランクが不在でな」

「なるほど、あいつは練りに練った計画というわけか」

「これを渡しておく」

　そう言って魔道具を渡された。

「ええと、何？」

「救難信号だ。撤退する時に支援してやる。煙幕張って、担いで逃げるだけなら、Ｂランクでも可能だからな」

「それで助かっても……」

「だが、時間が稼げれば、ＳやＡランクの冒険者が戻って来る」

　いや、再戦は無理だろう。

　あの王と、ギルマスのジャバが許すわけない。

「ありがとう。一応貰っておくよ」

「雨風除け機能付きの火点けの魔道具は大変助かってる。わしはお前さんに死んで欲しくない」

　雨風除け機能付きの火点け魔道具は俺が最初に開発した商品。

　うちのロングベストセラーだな。

　ファンは多いのかな。

「俺も死にたくはない」

「じゃな、健闘を祈る」

　拳を軽く突き合わせて、笑って別れた。

　良い人そうだが、政治的には弱いんだろうな。

「くそっ！」

　俺は帰り道の家の石壁を殴った。

　拳から血がぽたぽた垂れる。

「みんな、済まない」

　俺は謝った。

「何言うの。子供からの付き合いでしょ。いつも一緒だよ」

「あなたがいなかったら、わたし浮浪児のままで死んでたから。やるしかない」

「そうそう。死ぬときは一緒」

「今までけっこういい思いしたから。未練はないわ」

「ねぇ、戦いに……「それを言ったら死亡フラグ」」

　俺はベイシーの唇を押さえて、言葉を遮った。

「死亡フラグ？」

　不思議そうなフォルトゥナ。

　前世の概念だからな。

「ゲン担ぎだよ。情けない。こんなことを気にするなんてな」

　攻撃用魔道具を作りたいが、帰りに寄った魔石屋の魔石は全て売り切れだった。

　ここまでやるか。

　このところ、商品の大量注文があって材料魔石を全て消費してたのをジャバは知っているらしい。

　くそ、後手後手だ。

　人殺しに使える武器を作るのは嫌だから、家電みたいな魔道具しか作ってこなかったのが仇になったようだ。

　家に帰ると、兵士の一団が護送馬車付きで待ち構えてた。

　くそっ、そこまでやるか。

　とうぜん、俺達はドラゴンがいる山まで護送馬車で連れて行かれた。

　ふもとに近づくと、ドラゴンがブレスを吐きながら空中を飛んでくるのが見えた。

　ドラゴンは地表に舞い降りたが、どうやら森のモンスターや動物を食っているらしい。

　でかいな。

　どうやったら勝てる？

　魔道具職人としては１流だとの自負がある俺だが、攻撃用魔道具がない状況では無理ゲーだ。

　助手の４人も戦闘スキルと攻撃魔道具は持ってない。

　防具として、耐衝撃念動シャツがあるだけ。

　斬撃や矢とかなら、かなり防ぐ魔道具だけど、ドラゴンに通じる気はしない。

　俺は魔道具の製作過程を思い出した

「【生成ＡＩ】、io_port_write_command_str(ポートアドレス,)関数で、ポートアドレス800hから18ebfhまでループで"衝撃を止めろ"を書き込め。この耐衝撃念動シャツ.pyというPythonプログラムを作れ」

―――――耐衝撃念動シャツ.py―――――――――

# 800h～18ebfh に"衝撃を止めろ"を書き込む

for port in range(0x800, 0x18EBF): # 18EBFh まで

　　　　io_port_write_command_str(port, "衝撃を止めろ")

――――――――――――――――――――――――

　こんな感じに生成ＡＩがプログラムを作ってくれる。

　へっぽこプログラマーにとってはありがたい。

　もちろん、薬草だろうが、昔の事件だろうが、疑問には答えてくれる。

　しかし、間違いもそれなりにある。

　全知全能には程遠い。

「【Ｐｙｔｈｏｎ（パイソン）ＥＸＥ化（魔力回路化）】耐衝撃念動シャツ.py」

　これで魔石の内部に魔力回路を形成して、魔道具を作る。

　これで作った制御魔道具から、出力ポートに繋がった１０万本の魔力導線が念動の魔法陣に接続され、シャツに散りばめてある。

　この世界は原則は魔法、スキル、魔道具は一人でひとつしか使えない。

　なぜかというと頭が処理できないからだ。

　訓練しても３つが限界。

　右手と左手で違う動作は難しいのは理解できるだろ。

　魔法陣同士の連結も普通なら無理。

　魔法陣は１つにつき、１機能。

　俺の制御魔道具はこの常識を覆す。

　なので、家電と同じ機能の魔道具も作れる。

　そういうことだ。

　馬車が停まった。

　いよいよ、戦いになる。

　みんな無言だ。

　死ぬしかないのだろうな。

　転生して１８年。

　短い人生だった。

　前世は８０近くまで生きたから、未練はない。

　だが、助手の彼女達４人をなんとしても助けたい。