考えていないようで底から考えている、少年の生態を描写

本文を読み始めると面食らいます。あまりに朴訥な文面で、他人に読んでもらう技量も意図も欠いています。慌てて他の作品を読んで文体の差異を認め、確信しました。この文芸作品にあらざる文章は、知的活動から遠い少年の心中を模写した意図的なものだと。

少年は、知力になんの関心も抱いていませんし、獣としての本性を丸出しにして、世間をせせら笑っています。しかし、せせら笑う中に、大人の腹の底を正確に見抜く目が備わっていて。

私達だって不良少年を馬鹿にしますが、不良少年も私達を見抜いた上で馬鹿にしていることに気づいていますか? 本作を読んだ私達は問われます。そして作者は既に気づいています。

知力の価値を信じる人間が知力の価値を認めない少年の生態を描写するということ。当人ではなくキャラを描写するフィクションだからこそ読者に伝えられるものがあると読む人に教えます。

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