概要
「還せ」――その言葉は、卵の中から聞こえた。
円覚寺で、不可解な怪異が起こり始めた。境内に持ち込まれた卵だけが、殻を破られることなく、中身だけを失っていく。合理主義の若き住職は、犯罪心理学者・高瀬聡子の助力を得てその謎を追う。犯行声明のように繰り返される「卵の冒涜」。その対象は、無類の卵好きとして知られた先代住職の死後、ちょうど四十九日が過ぎた頃から始まっていた。庭師の供養、叔母の執着、そして先代が最期に呟いた「玉子の中」という言葉。それぞれが抱える「卵」への想いが絡み合い、寺院という閉鎖空間で静かなる狂気が滾る。やがて明らかになるのは、愛と執着、そして贖罪が織りなす、誰もが「中身」を求めていた人間の深層心理図だった。
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