些細な事
『些細な事』
アダムは疲れると、口数が減る。特に、冗談や皮肉のレパートリーが減る。
だから――
「……え、これくれるんすか?」
「嫌いでなければ」
「ヤクルト……」
「疲れが取れるぞ」
「……」
デルタは、水を飲む回数で精神状態がわかる。
なお、それを指摘するとセクハラ扱いされるので注意されたし――。
「何これ、アタシ水に甘いの入れんのヤなんだけど」
「ゆず、と言って、レモンに次ぐ香り高い柑橘なんだ!
いいからちょっとは炭水化物を口にしろ! あと、喉にもいいらしい」
「いただくわ」
アンナは、吐く息の長さが普段より3秒ほど長くなる。
そして伏し目がちになり、事務書類にミスが目立つようになる。だから――
「アンナ様、ローレン様からお届け物が……」
「何? 急ぎの確認資料はなかったはずだけど……」
「まあ! 綺麗な花茶! 早速お湯を沸かしてまいりますね!」
「……相変わらずね……。その優しさが裏目に出ないと良いんだけど」
エメは、コンディションが悪いと自室に籠って出てこない。
だが、そこまで陥るまでに、人の視線から逃れようとする。
「すまん、ホットミルクを作りすぎた。君も飲まないか?」
「――恐縮です」
「何がだ?」
「――いえ」
*
エメの手記による情報。
ローレンの不調は比較的わかりやすい。
普段から落ち込むと、あからさまにじめじめとしたオーラや、恨み節を表現しがちな彼だけれど、絶望感に襲われるとむしろ、人形のように動かない。
アダム
「ローレン導師、はい、処方箋~」
デルタ
「こういうのが好きなんて、可愛い所あるじゃない~? 召・し・上・が・れ☆」
<箱で買っておきました。自室に送付してあります。アンナより>(メール)
教会の方に顔を出す余力も無く、ラボの自席で呆然と手のひらを見ていたら、同僚の皆が何故か、ミルクキャンディーを大量に持ってきた。
誰から僕の趣向情報が漏れたかは――明らかすぎるから言及しないとして。
父が騙され、破産し、地方の邸宅から王都へ引っ越して、慣れないながらも労働をはじめたばかりの頃だった。
母が毎朝、この飴を持たせてくれた。
彼女は非常に厳しく、相容れない部分もある人で、未だ複雑な感情になる事も多い。しかし、その飴には確かに、母の愛がこめられていたと僕は確信している。
エメ
「すっごい量のミルクーキャンディー!! 今、スパイスいっぱいのチャイ入れますね! キャンディーパーティーされますか? それとも、お一人になりますか?」
ローレン
「……段ボールいっぱい+アルファの飴を一人で食べる姿…それはそれで悲壮感が漂うだろ! 君も付き合いなさい」
エメ
「御馳走様です!!」
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