取り調べ室より…坂本宗次郎

まぁよくあるタイプだな。まだそう決めつけるのは早いと頭では理解しつつも俺は安心していた。

報告書では空耳などという意味のわからないことを聞かされたが…。

それにしても、あの加実屋とかいう刑事、何者なんだ。

今日初めてペアを組まされてからあいつには驚きしか感じない。

「刑事さん。お名前、伺ってもいいです?」

気づくと神野は口を動かしていた。

異質な存在感を放っているが俺で充分なんとかなるレベルだろう。

「私は坂本です。坂道の坂に本と書いて坂本。あなたは…神野さんですね。」

例え相手が犯人であろうと俺は敬語を使う。相手が何をしてようが同じ人間だから。というかまぁ、ポリシーのようなものだ。靴の紐は右から結ぶ。みたいな。

「僕の名前知っててくれたんですね。」

神野ら最初見た笑みを崩さない。確かにイラつきはするが怖いという感情は今のところゼロだ。

「ねぇ坂本さん。全部思い出しました。」

嘘か本当かわからない。しかし、そうなら最高だ。昂ってくる気持ちを抑えて冷静に聞く。

「そうですか。焦らなくていいのでゆっくり話していってください。」

「僕は神の使いです」

…バカなのか?その言葉をゆっくりと喉奥に流し込む。大丈夫。典型的なタイプだ。

「どういうことか、もう少し具体的に説明してくれると嬉しいのですが。」

神野の顔を見ると笑みではなく真面目な顔をしている。こんな顔は初めて見る…いやなぜか既視感がある。

「僕は天から使命を授かってたんです。」

「それはど…」

言いかけた言葉を神野に遮られる。

「わかってます。どんな?と聞きたいのでしょう。答えましょう。なぜなら、神の使いだから。」

イラつく理由がやっとわかった。表情などではない。微妙にイントネーションと抑揚の付け方をずらしてるんだ…正直こいつから人間味を感じない。

「僕が授かった使命は、悪い人間の、皆殺しです。」

この瞬間取り調べ室内は戦慄した。空耳じゃなかった。あの報告書の内容は。いや、空耳だったのかもしれない。ただその時の神野にはそれを信じさせる力があったのだろう。

「坂本さん。俺が行きましょうか?」

加実屋が口を開くがそれを静止する。

「俺に、やらせてくれ。」

一度咳払いをしてから尋ねる。

「神野、それはどういうことかな?」

「もっと言えば人間の殲滅ですかね。坂本さんあなたにとって悪とはなんですか?」

顔をぐいっと近づけて聞いてくる。

俺は…俺にとっての悪は…

「私にとっての悪は、法律、条例、憲法に反する人です。」

「じゃあ坂本さん。人の靴を水たまりに投げ捨てる人間は悪ですか?」

悪だ。そう言わないと…刑事として。

「悪なのでは、ないですか?」

「じゃああなたは靴を投げ捨てる人全てを逮捕できますか?無理です。なぜならあなたたちは所詮人間だから。なら神ならどうでしょう?全て殺すことができます。それが、僕の役目です。これなら、拙い人間の頭でも理解できますか?」

こいつ、馬鹿にしているのか。湧き上がった怒りをなんとか収める。

「それは分かりましたが、具体的に何がしたいのですか?」

「坂本さん。僕とゲームをしましょう。」

この時神野が浮かべた笑みは最初のものとは全く違う…いわゆる満面の笑みだった。

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人間 毒牡蠣 @44731234

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