若い警察官より…榊昌弘
一体どうしちまったんだ。
取り調べ室から出て来た佐々木さんをみて、僕はそう思った。
神野の言葉に驚いて、それに録画を確認しに来るなんて。
しかも、あの真面目な佐々木さんが本部と変わりたい?
冗談だろ。
本部の人に交代と告げられた佐々木さんは心底安心した顔をしていた。
なんだったんだ。くそっ。
「ーーくん、弘くん、昌弘くん」
気づいたら本部の…几帳面そうな顔をした50歳前後の刑事に声をかけられていた。
「はいっ!」
やばい。気づいてなかった。
「昌弘くん。今から君には録画ではなくタイピングで記録を取ってもらう。」
なぜ?僕はそう思ったがすぐ理由に気づいた。この人たちルールを守らないつもりだ。
タイピングならば少しルールを破っても書き換えることが可能だ。
だから、意のままに操れそうな僕に声をかけたのか。少しイラっときたがここは我慢する。
いつか手柄を取って必ず見返してやる。
そんな思いを抱きながらはいと返す。
「それでは行こうか。」
几帳面そうな方の後ろからついていく、30歳前後の気弱そうな顔をした刑事が声をかけた。
「あのぉ、坂本さん。」
几帳面そうな方は坂本というのか。
「手に入ったのでぇ報告書、読み上げますね。
[容疑者、神野進。20歳。横浜でぶつかった相手にいちゃもんをつけ喧嘩に発展、その後駆けつけた警官に取り押さえられた。事情調査中に殺人を匂わせる発言。ただこの発言は空耳の可能性大。]」
続けて高野瑛人殺人事件の報告書も読み上げていく。
[高野瑛人。18歳。高校生。七月二日。PM11時。路地裏に男が倒れていると通報があり警官が駆けつけた時には死亡していた。死因は複数回胸を刺されたことによる出血多量。死亡推定時刻はPM9時]
ここからは僕の推理ですがといい刑事は続ける。
「高野瑛人は中学生の時半グレの集団に入っていた。その時に暴力団からの麻薬の買取。いじめ。深夜の徘徊を行なっていたらしい。高野瑛人は一度違法薬物取締違反で児童施設に入っている。高校に入ると同時に足を洗ったと言われている。今回はその暴力団が関係している可能性が高い。」
「馬鹿らしい。なんでこんなことで私たちが呼ばれたんだ。ここの刑事に任せておけばいいものの。」
「俺が、強く希望しました。これはただの暴力事件じゃない。」
この瞬間気弱そうな刑事はいつもとは違うハイエナのような鋭い目をしていた。
が、一瞬で気弱そうな顔に戻り頭に指を当てる。
「僕のここがそう言ってます。」
多分舌打ちをしようとしたのであろう坂本は、僕の方をチラッとみてから歩き出した。
「さっさといくぞ。」
この気弱そうな男…希望するだけで?普通ならこんなことはできない。一体どのくらいの権限を。
「ここに神野進がいます」
僕は取り調べ室のドアを開け足を踏み入れた、その瞬間、俺は佐々木さんの気持ちを理解した。全身が拒否反応を出している。
こいつは、関わっちゃダメだ。
坂本ともう一人の刑事はなんの迷いもなく近寄り、坂本が犯人の正面、もう一人の刑事は部屋の角に座った。
榊はぺこり、と謎のお辞儀をした後パソコン前の椅子に座り、キーボードを叩き始めた。
七月三日 火曜日 AM二時
タイピング開始
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