第3話

 野戦で大勝した帝國は籠城した王国軍を撃破すべく王城を包囲していた。


 戦力差は歴然としており力攻めでも容易たやすく城は落ちるだろう。

 だが未だ攻撃命令が下されない。


「しっかし籠城戦ってのはな……ガラじゃねぇのよ俺は」


 後方の陣で待機していたレグリスの口からは憂鬱そうな言葉ばかりが漏れ出していた。


「そりゃ派手に暴れてこそのレグリスだしね」


「お、よーく分かってんじゃねぇか」


「分かるに決まってるでしょーが! どれだけ一緒にいると思ってるのよ。何てったって星印アストル8だもんねー?」


 因習に囚われる古精霊ハイエルフの隠れ里を飛び出したカリンを救ったのが当時20歳だったレグリスだ。


「惜しい! 俺は☆9だぜ」


「え? 何勝手に増えてんのよ! あたしはまだ☆5なのにぃ!」


 星印アストルとは強さのしるしであり、生物としての霊格れいかくを表す象徴。肉体の様々な箇所に星の紋様が浮かび上がる。単純な戦闘力だけでなく、何かを極めし者は魂の格が高いとされている。


「まぁカリンも強くなったじゃねぇか」


「あたぼうよ!」


 大威張りでサムズアップするカリンにレグリスは思わず目を細めた。


「それはともかくよ。後は攻め落とすだけだが……何で総攻撃しねぇんだ?」


「そうなのよね。私が突撃前にドデカい精霊魔法を撃ち込んでやれば楽勝よ楽勝! まぁすぐに分かるわ。何せ――」


「おーい! カリンー! しっかり情報盗んできたよー!」


 カリンが古精霊ハイエルフ族にしては大きな胸を自慢げに反らせて威張っていると、リトゥスがふわふわと浮かびながら2人の元へと飛んできた。

 不穏な事を言っているが、召喚主であるカリンに似て表情は誇らしげだ。


「お帰りリトゥス。で、どうだった?」


「えとね。王国側に捕まえたい人間がいるってー! 公女のリヴィアって人―! それで計画立ててたー!」


「傭兵なんか血に飢えた獣と同じだからな。手柄のために殺しまくって奪いまくると思うぜ? それが公女ともなればなぁ……無闇な殺戮は遺恨を残すっつーのに」


 しみじみとこぼすレグリスにカリンが喰いつく。


「あんたがそれを言う訳?」


「いやな? 俺をそこらの殺人鬼と一緒にしないでくれるか?」


 流石の狂戦士ベルセルクと言えども聞きづてならなかったようだ。


 ――


 ムクレオン王国の玉座の間では、国王ヘイムスが漆黒のローブに身を包んだ老女と2人だけで話し込んでいた。


 そのため広々とした室内は閑散としている。

 よわい74を迎えるヘイムスの口から不安そうな言葉が零れる。


「グラティアよ、そなたの言う通り邪悪な魔王崇拝者共を駆逐した……だが本当にこれで良かったのかのう……」


「もちろんでございます陛下。あのような者達をのさばらせておけば、他国に攻められる前に国家滅亡の憂き目にあっていたでしょう」


 グラティアなる魔導士は、現状を知りながらも余裕の笑みを浮かべている。


「しかしのう……この状況をどうする? 打開策はあるのか?」


 弱り切ったヘイムスは首をひねるのみだ。


「ふふふ……この国難を乗り越えるために神を呼び出せば良いのです。魔王などとは比較にもならぬ神を」


「か、神じゃと!? そのような存在……まことの話なのか?」


「この後に及んで嘘を吐くはずがございません」


 取り乱し疑問を呈するヘイムスにグラティアは眉一つ動かさずに断言してみせた。


「神が仮にいたとしてどうやって呼び出すと言うのじゃ……?」


「既に計画は動き出しております。必要なのは神の憑代よりしろ――リヴィア公女殿下でございます」


「何っ!? リヴィアが……? 聖女たる娘が神になると……」


 ヘイムスが目を剥いて驚愕し体勢を崩して玉座から転げ落ちそうになった。

 いただく王冠がずり落ち掛けている。


「聖女ゆえに神の寵愛を得るのです。それでは殿下をお連れ致します」


「ま、待て……憑代よりしろだけで神など降ろせる物なのか?」


「いえ、物事には代償が必要ですが当てはございます」


 ヘイムスにとってリヴィアは目に入れても痛くない程に可愛い娘。

 彼女が神になれば王国の未来は安泰。

 それどころか王国が世界の中心に――


 親の欲目と王たる野望がヘイムスの胸に灯りギラギラと瞳が輝き始めた。


 それを見たグラティアは口元を僅かに歪めると玉座の間を辞した。

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星印《アストル》持ちの傭兵~混沌世界の終末へ~ 波 七海 @naminanami

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