第2話
阪神5
「おっちゃんドンマイ!」
パドックで出会った彼女は、馴染むように航太郎の横を陣取っていた。そしてターフビジョンの先にある青天井を見つめている彼に特段悪気もなく励ましの言葉を掛ける。
彼女の手元には馬券も新聞もスマホも握られていない。馬の勝ち負けで感情が揺れない彼女の姿に航太郎は一匙ほどの羨ましさを脳天に注いだ。
「三番の子は4コーナー手前で減速せんかったら一着行けたんちゃうかなぁ。最後の直線の加速がダントツ速かった分勝てんかったんは勿体ない。あー、前二頭に塞がれたんやなぁ」
三番の馬は三着。メイクデビュー戦などの少頭数のレースでは複勝で馬券を買っていたとしても二着までしか配当がない。
三連単や三連複で買っていたとしても、航太郎の財布に隙間ができることに変わりなかった。
「ご飯食べよ、おっちゃん!」
彼女は日差しよりも煌々とした笑みで航太郎に提案する。彼は相変わらず押し黙っているが、表情と姿勢で拒否を伝えた。
「食べましょうよ~。外は風強いし、『腹が減っては戦はできぬ』って言うしさ。あ、競馬場のご飯高い……とか?」
ラーメンに千円出すなら馬券を買う、定番のソフトクリームは時期的に体が冷える、阪神で食べている勝負飯を今食べるわけにはいかない――
彼女は航太郎の考えていることを見事に当ててしまった。
「おっちゃんおもろいな!」
彼女はニーっと笑う。その心底楽しそうな様子につられて航太郎も微笑んだ。
「おっちゃんのお気に入りの競馬場飯、教えてぇや」
若い女性に腕を引かれては仕方がない。今日は流されるだけ流されてみよう。
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スズカはパドックを見ている 菜凪亥 @nanai_meru16
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