愛したものしか蘇らせられない僕は、死者と共に生きる

ドラドラ

愛したものしか蘇らせられない僕は、死者と共に生きる。

 僕のスキルはネクロマンサー。


 ──いや、正確には、ネクロマンサーと鑑定されたスキルだ。


 最初から、どこかで気づいていた。

 この力は、世間が想像するような万能の死霊術ではない。


 死者を自在に操る?

 軍勢を率いて戦場を制圧する?

 そんな都合のいい力ではないことを、僕は最初の戦いで思い知らされた。


 戦場に転がる無数の死体。

 そのひとつひとつに意識を向け、何度もスキルを発動した。

 だが、返ってくるのは沈黙ばかりだった。


 動かない。

 応えない。

 まるで、僕の存在そのものを拒絶するかのように。


 仲間たちの視線が、次第に冷たくなっていくのを感じていた。

 期待が失望に変わり、失望が苛立ちに変わっていくのが、痛いほど伝わってくる。


 唯一、成功したのは――飼っていた愛犬だけだった。


 戦場でも英雄譚でもない。

 ただの、僕のそばで眠るように息を引き取った、小さな命。


 そのときは、理由なんて考えなかった。

 ただ、嬉しかった。

 また一緒にいられる。それだけで胸がいっぱいだった。


「……やっぱり、僕は駄目なのか」


 気づけば、パーティーの隅で肩を落としていた。

 隣には恋人がいて、何も言わずに僕の手を握ってくれていた。


 その温もりだけが、僕を現実に繋ぎ止めていた。


 役立たず。

 期待外れ。

 お荷物。


 そんな言葉を投げつけられ、僕らはパーティーから追放された。


 あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。

 恋人の無理に作った笑顔。

 仲間たちの怒声。

 背を向けられた瞬間に、世界から切り離されたような感覚。


 そして――本当の絶望が訪れたのは、その数日後だった。


 恋人が、殺された。


 理由も、意味も、分からない。

 ただ、帰らぬ人になっていた。


 泣き叫ぶこともできなかった。

 怒りに震えることもできなかった。


 胸の奥で、何かが音もなく壊れた。


 震える手で、スキルを発動した。

 考えるよりも先に、口が動いていた。


「ネクロマンシー、発動」


 その瞬間、奇跡が起きた。


 恋人は、ゆっくりと目を開いた。

 血の気はなく、体温も低い。

 だが、確かにそこにいる。


 生前と同じように、僕を見つめて、微笑んだ。


 その笑顔を見た瞬間、すべてを理解した。


 僕の力は、愛したものにしか効かない。


 愛が深ければ深いほど、死者は強く、確かに蘇る。

 愛犬も、恋人も。

 そして、少しずつ増えていく、僕が愛してしまった死者たちも。


 その力は、誰よりも強かった。


 僕は戦場を駆け抜けた。

 恐怖はなかった。

 失うものは、もう何もなかった。


 気づけば、最強と呼ばれる存在になっていた。

 だが、手元に残るのは、生きた人間ではない。


 愛する死者たちだけだ。


 孤独だった。

 間違いなく、孤独だった。


 それでも――この孤独の中で、僕は初めて安らぎを感じていた。


 もう、誰も失わない。


 そう呟き、死者たちを見渡す。

 愛犬が尻尾を振り、恋人が静かに微笑む。


 それだけで、心が満たされていく。


 世界に、ただひとり。

 僕だけが、幸せだった。


 戦場は荒れ果て、僕の前に立ちはだかるのは、かつての仲間たちや敵対者たち。

 だが、もう恐れることはない。


 死者たちは、僕が注いだ愛を宿して戦う。

 愛犬は牙を剥き、恋人は剣を握り、かつての仲間たちはそれぞれの戦い方で僕を守る。


 愛が、力になる。


 その真理を理解した僕は、戦場を蹂躙した。


 戦いが終わったあとに残るのは、静寂と死者たちだけ。


 館に戻ると、生きた人間の気配はなかった。

 ただ、死者たちが僕を迎える。


 食卓に並び、椅子に座る彼らを見つめる。


「今日も一日、頑張ったな」


 返事はない。

 それでも、そこにいてくれる。


 ありがとう。

 声に出して呟く。


 孤独は完全だった。

 だが、この孤独の中で、僕は本当に満ち足りていた。


 僕の世界は、ここだけでいい。

 愛する者たちと、永遠に生きる。


 誰も理解できなくても構わない。

 僕の隣には、愛した死者たちがいる。


 そして――

 世界でただひとり、幸せだったのは、僕だけだった。

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