ハック・ザ・ワールド /エピローグ:残響
全ての始まりの場所、あの日彼らが「反逆」の産声を上げたいつもの学校の屋上。
冬の夜風が吹き荒れる中、四人はそこに立っていた。眼下には、彼らを捕らえようと包囲するパトカーの赤い回転灯が、無数の鱗のように街を埋め尽くしている。
「……皮肉だな。最後がまた、ここなんてよ」
不破が銀色のストラップを締め直し、ベースの低音を響かせる。
「いいえ。ここから、僕たちの音は日本中の心臓へ『再インストール』されるんです」
田上が震える手で最後のエンターキーを叩いた。
次の瞬間、日本中のあらゆるモニターが、屋上の四人を映し出した。茶の間のテレビ、街頭ビジョン、人々の手の中にあるスマホ。逃げ場のない「音の洪水」が日本全土をジャックした。
極限の共鳴
「……歌おうぜ、桑田。この国を、ぶっ壊して作り直す音を」
荒崎の合図と共に、ラストライブの幕が上がった。
一曲目、『RE:SISTANCE』
もはや桑田の喉に声は残っていなかった。しかし、彼はマイクに向かって、魂を削り出すような「咆哮」を叩きつけた。それは歌ですらなく、この不条理な世界に対する純粋な「怒り」と「叫び」。
だが、その掠れた叫びが、田上のハッキングによって倍増され、不破の暴力的なベースと重なった時、それは聴く者の脳裏に直接焼き付く「真実のメロディ」へと昇華された。
「……あ、あああああああ!!」
桑田の叫びに合わせ、日本中の若者が、大人たちが、思わず立ち上がった。画面越しの熱狂が、物理的な振動となって街を揺らす。
警察の突入、そして
「屋上のドアを破れ! 放送を止めろ!」
階段を駆け上がる警察官たちの足音が聞こえる。ドアの向こうで怒号が響き、激しい衝撃が鉄の扉を叩いた。
「荒崎、もう時間がねえぞ!」
不破が叫ぶ。
「……分かってる。最後の一音まで、俺たちの勝ちだ」
荒崎はマイクを掴み、カメラの向こう側にいる数千万人の日本人に向かって、静かに笑いかけた。
「世界は、ハックできる。……場所も、名前も、全部奪われたってな、俺たちの中にあるこの『ノイズ』だけは、誰にも消せねえんだよ」
ドォォォォン!! という爆音と共に、ついに屋上のドアが蹴破られた。
銃を構え、突入してくる警官隊。
だが、その瞬間に起きたのは、誰も予想しなかった光景だった。
田上が指を鳴らした瞬間、屋上のすべての機材から白光の閃光弾が炸裂した。視界が真っ白に染まる中、電波ジャックされた画面には、最後に一言だけ、血のような赤文字でメッセージが刻まれた。
『NO MORE RULES. LISTEN TO YOUR NOISE.』
(ルールはもうない。お前自身のノイズを聴け)
end
エピローグ
数分後、警官隊が辿り着いた屋上には、誰もいなかった。
そこにあったのは、使い古された一本のギターと、銀色のストラップ、そしてまだ温かい真空管アンプだけ。
彼らが捕まったというニュースは、その後一度も流れることはなかった。
代わりに、SNSには「セカレジを目撃した」という噂が、ロンドンで、香港で、そして日本の名もなき裏通りで絶えず流れ続けた。
池田の会社は世論の猛反発を受けて倒産し、舞元は「彼らの音楽を愛する者」として独立した。
そして今日も、街のどこかで不器用な少年たちがギターを手に取る。
「……おい、聞こえるか?」
どこからか聞こえてくる、荒々しいベースの重低音。
セカレジ(WORLD RESISTANCE)は消えていない。
彼らは、システムの中に、そしてあなたの鼓動の中に、今も深く潜伏し(ハックし)続けている。
聖地は屋上、世界は僕らの手の中に 南賀 赤井 @black0655
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