亡国の凱旋、あるいは反逆の電波
成田空港の到着ゲート。ロンドンでの熱狂を胸に帰国したセカレジを待っていたのは、花束を持ったファンではなく、怒号とフラッシュの嵐だった。
「海外での違法薬物使用の疑いは本当ですか!?」
「若者を扇動し、社会秩序を乱している自覚はあるのか!」
マスコミの容赦ない言葉のナイフが、まだ身体の癒えていない田上や、疲弊したメンバーに突き刺さる。さらには、空港警察による異例の「検閲」という名の手荷物検査。まるで犯罪者扱いだった。
「……なんだよ、これ。俺たちはただ、音を鳴らしてきただけだろ」
不破が低く呟く。その横を、舞元が足早に通り過ぎ、黒塗りの車へとメンバーを押し込んだ。
池田の冷徹な宣告
事務所の最上階。オーナーの池田は、夜景を背に冷たい瞳で四人を迎えた。
「世界で名を上げた気分はどうだ? ……だが、やりすぎたな。君たちの『ノイズ』は、この国の安定を望む上の連中にとって、あまりに耳障りな不協和音になった」
池田のデスクには、全てのライブ会場のキャンセル通知と、大手スポンサーからの契約解除書類が山積みになっていた。
「君たちを呼び戻したのは、助けるためではない。……これ以上傷を広げないよう、ここで『解散』を発表し、公の場で謝罪させるためだ。それが、君たちを生かしておく唯一の条件だ」
池田は、巨大な権力に彼らを「生贄」として差し出すことで、自らの会社を守る道を選んでいた。
「世界をハックした俺たちが、これで終わるかよ」
「……謝罪、ね。誰に対してだ?」
荒崎が、池田のデスクに足を投げ出し、不敵に笑った。
「俺たちの音を待ってる奴らにか? それとも、椅子にふんぞり返って震えてる老人どもにか?」
「荒崎、状況を理解しろ。君たちにはもう、歌う場所も、流す電波も、一ミリも残されていないんだ」
「場所がねえなら、奪うだけだ」
荒崎はメンバーを振り返った。桑田はギターケースを握り締め、不破は不敵に口角を上げ、車椅子に座る田上はタブレットの起動画面を見つめていた。
「池田さん。あんた、俺たちをここに呼び戻したのは最大のミスだぜ。ここは日本だ。俺たちが最初に『ハック』した庭なんだよ」
日本全土、電波ジャック作戦開始
その夜。セカレジの四人は事務所の監視を潜り抜け、かつて自分たちが「学校ジャック」を行った際に使用した旧型の発信機と、田上の最新デバイスを連結させた。
「……準備はいいですか? 日本中の大型ビジョン、テレビ、スマホの画面。一斉に『ノイズ』を流し込みます」
田上の指がキーボードを叩く。
「会場を奪われたなら、この国すべてを会場にする。……行くぞ!」
次の瞬間、日本中のテレビ番組が砂嵐に変わり、渋谷、新宿、大阪の大型ビジョンが同時に黒く染まった。そして、そこに映し出されたのは、ボロボロになりながらも笑う四人の姿。
「……聞こえるか、日本。WORLD RESISTANCEだ」
荒崎の声が、電波という名の海を越えて、全国民の耳に直接届けられた。
「俺たちの『真実の歌』を、今からここに叩きつける。……これが、最後にして最大のハッキングだ!」
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