第3話 魔法の授業!
庭の散歩を終えて、オレは自室へと帰ってきた。
相変わらず無駄に豪華で居心地があまりよろしくないな。
家具とか壊したらと思うと、気軽に使えない。
でも、これにも慣れていかないといけないんだろうなぁ。オレは侯爵家の嫡子だし、安物を使っていたら侮られてしまう。
しかし……。
「ふぅ……」
散歩ってこんなに疲れるものだったか……?
三十分くらい歩いただけなのに、もうくたくただ。
まったく、エドワードくんのポテンシャルは逆にすごいな! ここまでくると逆に清々しいレベルだよ! クソが!
汗ももう滝汗だよ。気持ち悪い。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……、はぁ……」
いつまで経っても息も整わないし、すごいな。逆に貴重な経験をしている気分だ。
「エドワード様、魔法の勉強のお時間が迫っておりますが……。本日はお休みいたしますか?」
「ま、魔法……?」
魔法というワードにわくわくする。
たしか、エドワードくんの魂の魔法は影魔法だったっけ。
『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の世界では、十歳を超えると人は一つ、魂の魔法というものが使えるようになる。
人々はこの魂の魔法を生涯にわたって鍛え続けるのだ。
しかし、エドワードくんにとって魔法はあって当たり前のもので、しかも自分の魔法は影魔法という制約が多く、自由の少ない魔法だった。
ようするに、エドワードくんは自分の魂の魔法が好きではなかったのだ。
とはいえ、魂の魔法は気に入らないからチェンジということはできない。
それもエドワードくんが影魔法が嫌いな理由だ。
そこで、エドワードくんは幼稚な理論を展開する。
魔法は下々の者たちが使うものであって、次期侯爵である自分には必要ないという理論だ。
ちゃんちゃらおかしいね?
でも、エドワードくんはそれを理由にして、魔法の勉強をサボりまくるんだ。
そりゃ公式の紹介欄に魔導士としての腕は三流とか書かれちゃうよね。
「やる!」
魔法なんて日本では使えなかった。魔法を使いたいと思うのが日本人として当然の反応だ。しかも、ここは『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の世界ときた。テンション爆上がりだぜ!
「え⁉ やるんですか⁉ いつもでしたらあんなに嫌がるのに⁉」
カーラがまるで不思議なものを見たと言わんばかりに驚いている。
そうだね。今までのエドワードくんなら、絶対にここで拒否するからね。
でも、オレは魔法に興味津々だ!
「早く行こう!」
オレは座っていたソファーから立ち上がると、カーラを連れてもう一度広大な庭に出る。向かうはお屋敷から少し離れた場所にある広い建物だ。
そこは、日本で言えば弓道場が近いだろうか。天井や屋根はなく、三メートルくらいの壁に囲まれた空間。その一角は射撃場なのだろう。土が盛られた上に人型の的が立っていた。
ここが、オールディス侯爵家の魔法練習場である。
そんな魔法練習場の壁にもたれかかるようにして、白いヒゲを伸ばしたザ・魔法使いという見た目のおじいちゃんが立っていた。
エドワードくんの魔法の先生だ。たしか自己紹介を受けたはずだけど、エドワードくんの記憶をいくら探っても名前が思い出せない。
うん。忘れてるね。
「おや? 今日は来られたのですな?」
おじいちゃん先生が、こちらを少し驚いた様子で見ていた。
「これからは毎日来るよ」
「じゃとよいのですがの」
おじいちゃん先生はまるで信じていないような様子で壁から背中を離した。
まぁ、今までのエドワードくんの態度を見ていればそうなるか。
「ええと、どこまで進めましたかな? 久しぶりですので、基本から始めてみますかの?」
「はい」
オレにとっても好都合だったので、オレは即座に頷いた。
いよいよ魔法が使えるのか。楽しみだな!
「魂の魔法とは、内なる魔力を消費して起こす奇跡のことを呼びます。儂の魂の魔法は火魔法でしてな。このように――――」
おじいちゃん先生が右腕を持ち上げて、オレに向かって人差し指を立ててみせた。
すると、人差し指の先端にはまるでライターの火のような小さな火が灯る。
「今、儂はこの人差し指から細く魔力を出しとります。魂の魔法とは魂に刻まれたその人のみが扱える魔法。儂がエドワード様の魔法を使えないのと同じように、エドワード様も儂の魔法は使えません。ご自分が何の魔法を使えるかは、魔力を体の外に出してみればわかります」
「なるほど……」
一応、オレには『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の知識があるから知ってはいたが、この世界ではマンガやアニメであるような魔法の詠唱というものが必要ない。
だが、『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』では主人公をはじめ登場キャラクターたちが魔法の名前を叫んでいたのを思い出す。
魔力を体の外に出すだけで魔法になるのなら、なぜ彼らは技名をわざわざ叫んでいたのだろうか?
「質問があります」
「何でしょうかの?」
「魔法使う際に、技の名前のようなものを叫ぶのはなぜでしょう?」
思い起こせば、カーラも必要がないのに魔法の詠唱のようなことをしていた。
あれにはどんな意味があるのだろう?
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