第2話 ダイエット開始
「ふむ。多少混乱していたが、今はもうなんともないのか?」
歴代の当主の絵画が飾られた豪華な部屋。壁の本棚にはびっしりと本や巻物が置かれ、その奥にはUの字を描く立派なヒゲを蓄えた男性と、豪華に着飾った女性がいた。
二人ともイケメンと美女だ。
何かの冗談であってほしいところだが、この二人がエドワードの両親である。つまり、パパとママだね。なんでこの両親からオレのような肥満児が生まれたのか謎である。
「はい、父上。もうなんともありません」
「近くにカーラがいたからいいものの。これからは気を付けるのですよ?」
「はい。母上にもご心配おかけしました」
そんなこんなで、心配そうな両親との面会も終わり、オレはカーラを従えて肩で風を切るように自室に戻る。
その間、何人もの使用人とすれ違ったが、オレの姿を見ると、慌てて壁に寄ってかしこまっていた。その様子はなんだか怯えているように見えて、中にはオレの姿を見ただけで回れ右した使用人もいたくらいだ。
なぜ……?
オレはエドワードの記憶を探る。
するとまあ出てきたのは、使用人たちへのどうしようもないいたずらのオンパレードだった。
しかも、仮にも主家の、それも嫡子のいたずらだから、使用人たちは大目に見るしかない。それもすべてわかった上での犯行である。
父上も母上も一人っ子だからとエドワードを甘やかしすぎなんだよ!
もう完全なるギルティーだね。そんな奴は子どもだろうと嫌われて当然だ。
こっちは死亡フラグ回避のためにいい人になりたいのに、もう嫌われてるとか最悪だよ!
「最悪だ……」
「どうしました、エドワード様?」
「いや、なんでもない……」
問いかけてくるカーラにそう返すと、オレは急いで使用人たちのオレへのイメージ改善計画を練る。
オレだって本当は迷惑をかけた使用人一人一人に謝罪したい。
でも、それはできないんだ。オレは次期侯爵になる予定の嫡子だからね。使用人に頭を下げることなんてもってのほかだ。
仮にオレが頭を下げて謝罪したとしても、新たないたずらの仕込みだと思われるだけだろう。
完全に詰んでやがる。
「どうすりゃいいんだよ……」
こうなったら、反省していることを態度で示すしかないよな?
オレはもう使用人に対していたずらなんかしない。清く正しく生きるのだ!
でも、どうしたらみんながオレが改心したと信じてくれるだろう?
……無理じゃね?
下がりかけた視線に映るのは、歩くたびにぽよんぽよんと弾む突き出たお腹だった。
「健全な精神は、健全な肉体に宿る……!」
少なくとも、こんなぽよんぽよんボディーには宿らないだろう。
それに、何かを始めるにはまず形から入る人も一定数いる。オレもそのタイプだ。
オレが使用人たちへのいたずらをやめ、ダイエットを始めて見た目も変われば、使用人たちのオレを見る目も変わるかもしれない。
「がんばるか」
そうと決まれば、さっそくダイエットだ。
オレは無駄に豪華な自室に帰ると、さっそくストレッチを始める。
エドワードは体を動かすことをあまりやってこなかったからか、全身の筋肉がカチカチだ。鈍っている体を急に動かすわけだし、入念にやっておこう。
「エドワード様? 何をなさっておいでなのですか?」
「ストレッチといって、体の筋肉をほぐしているんだ。運動する前にストレッチしないと、怪我のリスクもあるからね」
「エドワード様が運動を⁉ 自ら進んで⁉」
「あ、うん……」
カーラの反応を見れば、エドワードくんのこれまでの怠惰な生活がわかろうというものだ。
「よし!」
一通りストレッチを終わらせると、体がホカホカして汗も出てきた。いい傾向だ。
「まずはスクワットからいくか」
なぜオレがスクワットを選んだか。
スクワットは、体の中で一番大きな筋肉である大腿筋を動かす代表的な運動の一つだ。大きな筋肉を動かせば、それだけ多くのエネルギーを消費できる。
「ぐぬぬ……」
これまで怠惰な生活をしていたエドワードくんには慣れない運動なのだろう。すぐに疲れてしまう。
だが、こんなことで負けはしない!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
それでもなんとか十回終わらせた。
お尻の筋肉と大腿筋がぷるぷる震えて攣ってしまいそうだ。
次は上半身を鍛えるか。
といっても、オレはあんまりダイエットに詳しくない。前世では適当にスクワットしてたら体型維持できてたからな。
それに、言ってしまえば筋トレに関しても人並みに知識があるだけだ。たぶん、知ってる人から言わせれば、オレの筋トレは間違っているかもしれない。
でも、やらないよりいいだろう。
ここは無難に腕立て伏せと腹筋かなぁ。
そんなこんなでストレッチの後、思いついた筋トレをして、その後はカーラを連れてお屋敷の広大な庭を散歩だ。
カーラには付いてこなくてもいいと言ったんだけど、そういうわけにもいかないらしい。メイドって大変な仕事だね。
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