届きそうで

 ベンチを照らしている照明の下で、俺は頭を抱えた。


「今日もダメだったなぁ」


 俺は、この星に送り込まれたXX-X0X星の諜報員・トドキだ。


 最初は、この星を征服するために、星の生物に擬態して潜入する任務を与えられていた。

 しかし……


「今日も会ってくれたのはうれしいけど、名前が知りたいよ」


 彼女が公園に来なくなったら、俺はもう彼女に会う手段は俺にはない。


 一度、彼女の住処を突き止めるために尾行をするつもりだったが、上司に止められたのだ。

 あれは、数回目の任務報告の時だったか。


『トドキ、手こずっているな』

「アイサー。標的の拠点の特定のため、船を離れて尾行したいのですが許可は?」

『やめろ、お前それ犯罪だからな? ストーカーだぞ』

「そ、そんな」



 彼女を見つけたのは、まだ船の中だった空中だった。

 標的とする生物を探すため、俺は星を眺めていたのだ。彼女はそのときに惹かれた。


 うつむいて、頭のてっぺんを見せる彼女は、どこかかなしげで放っておきたくなかった。心のセンサーがぴこぴこ音を立てたのだ。


 だから俺は標的を彼女に決めた。


 星に降り立ったあと、しおれた黄色い植物を思わず摘んでしまったのは、空から見たときのうつむく彼女に重なったからだ。


 そのあと彼女はただ書物を読んでいただけで楽しんでいたと知るのだが。


「はあ、もう仕事とかどうでもいいよ」


 もはや俺の心に征服のことは頭になかった。公園から見られる限りでもこの星の征服は困難を極める。

 それならつがいを見つけて帰星したい。

 上司も異星人を伴侶としているから、反対はされないはずだ。


「明日も来てくれますように」


 空を見上げて見える俺の星に、願いを込めた。

 叶うのはいつになるのか、誰でもいいから知っていればいいのに。

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教えない、なんにも 一途彩士 @beniaya

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