Chapter #0003 Girl Meets Girl / Segment 2 悟者と皇帝
南の帝国の首都にあるキョウト・ゴショの皇帝執務室のドアを四回ノックする者がいる。
「朕は執務中である」
皇帝が野太い声でそう応えると。
「で、あるか。ならば余は帰るぞ」
との雅な声があった。
皇帝は急いでドアを開けた。
「ジェノベーゼどの、来るときは先に連絡してくれと言っているじゃないか。守られたためしがない。困る」
ジェノベーゼは笑顔になった。
「余のこういうギャグが通じるの、ステーキ君しかいないんだよね~。他の者は萎縮しちゃってさ」
そう呼ばれた男は南の帝国の皇帝で、ステーキという名の53歳のライオン人だ。筋骨隆々で、身長207cm、体重128kg、体脂肪率16%、マルゲリータよりもやや背が高くゴツく体脂肪が低い。
「うむ、朕にそのようなギャグを言う者はジェノベーゼどのしかおらぬ。我らは互いに貴重な友人だ。入ってくれ」
皇帝の秘書が二人のために紅茶、皇帝のためにクッキーを用意した。
「ちょっと見てほしいヤツがいるのだ」
ジェノベーゼがそう言うと、執務室の壁にカキ氷を食べるコンプレットとマルゲリータの姿が映し出された。
皇帝は「ほう」と感嘆した。
「二人とも、サジですくうときは、その下に手を添えて落下防止をしている。そして口に含んだあとの姿勢……尾骨から延髄までがほぼ垂直で、軽く上を向き鼻腔を広げている。体幹の筋肉がしっかりしているし、食べものを瞑想的に全力で味わう、礼儀正しく武人として美しい姿勢、二人ともここに戦場を見出しているかのようだ。仕草も流麗。いまどき珍しいな……むう、この二人、親しくはしているが互いを尊敬しているな。礼が欠けていない」
ジェノベーゼはニンマリだ。
「残念ながら、北の国はこの二人の真価が発揮される場所ではない。知に特化した国だからね。だけど、君の帝国は体育会系だよね」
皇帝は目を細めた。
「ほう……貰っていいのか?」
「まぁまぁ、もう少し迷ってよ。この二人がワイバーンを2つヤッて、お偉いさんのゴールデンドラゴンを撃退する様子、見たい?」
「なんと、ゴールデンドラゴンを撃退!? 初耳だ、ぜひぜひ!」
「じゃぁ、コーラとポップコーンでも用意してくれよ、映画みたいに楽しいから」
「いや……そういうのは御所内にない。つかあんた、そういうの飲まないし食べないのでは」
「友達に出されたらつきあうよ」
「いや、ないから。知ってて言わんでくれ、まったく……そうだな、カキ氷とかどうだ? さっきので朕は食べたくなった。抹茶のなら用意できる」
「あ、それいいね~。氷も抹茶もだいすき!」
結婚したいオオカミ武者と悟りの彼方の首刎ねウサギは愛を知る --神通科学時代の哲学-- 掬月 @kikugetsu
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