田舎の島を舞台にしたギャルゲーの悪役令息に転生した俺、破滅エンドを回避するために頑張ってたら主人公がここへ引っ越してくる前に全ヒロインを寝取ってしまった件について
第2話 童貞、イケメン悪役令息に転生する
第2話 童貞、イケメン悪役令息に転生する
「……ん?」
目を覚ますとまず視界に入ったのは古びた木造の天井だった。
見覚えのない光景に思わず息を呑み、俺は上体を起こして大きな窓の外へと目を向ける。
そこには――どこまでも広がる綺麗な青い海。
(どこだよ……ここは……?)
脳みそが状況を理解しきれていない。
それでも何があったのかを必死に思い出そうとする。
確か俺は……サマーバケーションというギャルゲーを買いに、ゲームショップへ出かけた。
その瞬間、思い出したくもない痛々しい記憶が蘇った。
信号無視した車が一直線に俺へ突っ込んでくるあの場面。
――そうだ、俺は車に轢かれたんだ。
ということは、ここは病院なのか。
混乱したまま部屋中を見回してみるが、どう見てもこのただの和室が病院だとは思えなかった。
そのとき、胸の奥に嫌な予感が走る。
部屋の隅に置かれた鏡。
恐る恐るそれを覗き込んだ瞬間――
「……え!?」
そこに映っていたのは、俺が買いに行ったギャルゲーに登場する悪役令息――金城貴と瓜二つの顔だった。
端正なルックスに綺麗なブロンドヘア。
だが目つきは鋭く性格の悪そうな顔。
背筋が凍りつく。
そんなはずがない。
あり得るわけがない。
――それでも、どう見ても奴の顔だった。
「ま、まさか俺……いわゆる……転生ってやつをしてしまったのか……?」
俺はその場で思わず頭を抱え込んだ。
もし本当に俺がこのゲームの世界に転生し、金城 貴になってしまったのだとしたら、それはつまりこの先に待っているのが悲惨な末路だということに他ならない。
金城貴は莫大な財産を持つ大富豪の息子だ。
実家はこの島で古くから続く名家で、主要な企業や観光事業、土地開発にまで深く関わっている。
その圧倒的な影響力ゆえに島の人間たちは皆、表向きは彼を恐れへこへこと頭を下げている。
だが、軽薄に女に手を出しては拒まれれば逆恨みし、立場の弱い相手には横柄に振る舞うので、裏では島中から嫌われていた。
当然、ヒロインたちからも心底忌み嫌われ、本編では主人公の邪魔ばかりをするのでプレイヤーからも嫌われる始末。
そしてエンディングで金城家は破産し、その影響力は完全に失われて、それまで金城貴にへこへこしていた連中は一斉に離れていく。
一人ぼっちになった彼は、島中からいじめられ、やがて社会に出た後もかつての権力は一切通じないため無能として見下され、上司から酷いパワハラを受け、最後に自殺する。
――そんな、最悪の結末を迎える。
「……どうすんだよ、これ」
俺が一人落ち込んでいると、部屋のドアを叩く音がした。
「……坊ちゃん?は、入ってもよろしいでしょうか……?」
「あ!は、はい!」
突然のドアノックに少し驚きつつそう答えると、静かに扉が開いた。
そこには畳には似合わないメイド服を着た女性が立っていた。
灰色の長い髪に自信なさげな表情、だが顔立ちは整っていてとても美人だ。
確かこのキャラは、灰莫(はいな)しず。
ゲームでも、ほんの少しだけ登場していた人物で、金城にいつもセクハラをされている気の毒な使用人だ。
「坊ちゃん、そろそろ起きないと……あの……その……今日から三学期ですよ……?」
彼女の声は震え、俺と目を合わせようとしない。
そして一定の距離を保ったまま、決して俺に近づこうとはしなかった。
――嫌われているのか。
いや、怖がられている、と言った方が正しいか。
「あ、分かりました!今すぐ準備します!」
そう言って立ち上がると、灰莫しずはびくっと肩を震わせ、一歩後ずさった。
一体、金城は彼女に何をしていたんだ。
「ひぃ!」
「そ、そんな怖がらなくても……」
「……え?」
「だ、だから大丈夫だって」
すると彼女は少し俯いたあと、俺の顔をじっと見つめてきた。
「……今日の坊ちゃん、いつもと様子が違いますけど……大丈夫ですか?」
「い、いつもの俺ってどんな感じなんだ?」
「えぇ!?覚えてないんですか!?」
「うん」
「えっと……朝起きたら、まず私に抱きついて……そのあとお仕置きタイムに入りますよねぇ……?」
「そ、そうなんだ……」
まあ、金城らしいと言えば金城らしい。
しかし、このまま今までの金城のように横柄に振る舞えば、俺は確実に破滅エンドへと進んでしまう。
そこでどうするべきか考えた。
ここで記憶喪失を装い善人として生き直す展開にするか、それとも「今日から心を入れ替えた」と言い切って進むか。
悩んだ末に、俺は後者を選んだ。
「灰莫……実は大事な話がある」
「は、話!?まさか……その……えっちぃな話じゃないですよねぇ?」
「ち、違うよ!そうじゃなくて……今日から俺は、みんなに優しく振る舞おうと思うんだ」
「えぇーー!!?!?」
灰莫しずは俺の言葉に驚き、腰を抜かした。
まあ無理もない、俺も金城がこんなことを口にする展開は予想できないからな。
そしてもう一つ。
これは誰にも言わず心の中だけで決めたことがある。
周囲に善人として振る舞うのと同様に、ヒロインたちの好感度も上げておく。
だが、それは決して恋愛メーターを上げるためではない、あくまで「良き友人」、適切な距離を保ったまま。
せっかく大好きだったギャルゲーの世界に転生できて、憧れのヒロインたちと恋愛できるかもしれない――そんな千載一遇のチャンスを、わざわざ棒に振るなんて。
もしこの状況を俯瞰している人物がいたらきっとそう思われるだろう。
それでも俺がこの選択をしたのにはちゃんとした理由がある。
今まで説明してきた通り、こいつはこれまで散々、周りの人間を傷つけてきたクズだ。
そんな人間が過去を清算することもなく幸せになっていいとはとてもじゃないが俺には思えない。
しかし、だからといって金城の尻拭いとして俺まで不幸になるつもりもない。
ならば、選ぶべき道は一つだ。
なるべく地味に、目立たず。
余計な波風を立てず、普通の人生を歩む。
高校を卒業したらこの島を離れて、汗水垂らして働き、並の幸せを手に入れる――それでいいと俺は思う。
(そう、それでいい……たとえクズだとしても金城のスペックさえあれば現実世界の俺よりもマシな人生を歩めるはずだし……)
そんな風に俺が一人で納得していると、灰莫しずがこちらを見つめ、目をうるうると潤ませていた。
「うぅ……坊ちゃん、やっと……昔のアナタに戻られたのですね……!」
「む、昔……?どういうことだ……?」
思わず聞き返す。
このゲームは好きだが、金城の過去についてまで詳しく知っているわけじゃない、原作では語られなかった裏設定があるというのか。
俺が首をかしげていると、灰莫しずは金城の過去を語り始めた。
「坊ちゃん、昔いろいろありましたでしょう?お母様が亡くなられて……そのあと旦那様もお仕事で忙しくてほとんどお屋敷にいらっしゃらなくなって……」
「………」
「その頃から少しずつ変わられましたよね、前はもっと……優しかったのに……」
なるほど、金城の性格が歪んだのにはそういう理由があったのか。
ゲームスタッフもただ嫌な悪役として彼を作ったわけじゃない、ちゃんと裏設定まで考えられていたと言うわけか。
孤独が金城を変えてしまった。
(そういえば俺も孤独だったな……)
大学受験の失敗をきっかけに、両親は俺を勘当し、仕事に追われる日々の中で交友関係は途切れて気づけば独りだった。
言うまでもないが彼女いない歴=年齢、つまり童貞である。
まあ、だからといって俺は誰かをいじめたりすることはなかったが……案外、俺と金城は似ているのかもしれないな。
すると突然、灰莫しずが俺の方へそっと近づいてきた。
「……?」
そして次の瞬間――
「わぁ!?!!?」
「坊ちゃん……♡」
なんと、彼女が俺に抱きついてきたのだ。
「な、何してんだよ!?」
「何って……坊ちゃんが大好きなハグですよぉ……♡」
「ちょ、ちょっと……!」
驚いて身を引こうとしたが、彼女の腕力は意外にも強く、なかなか離れられない。
「今までお預けでしたけど、今日は坊ちゃんの新しい門出のお祝いに、昔付き合ってた時みたいに好きなだけ甘えていーですよぉ♡」
「つ、つ、付き合ってたぁ!?」
「も〜、とぼけちゃって……そういう態度、懐かしくて可愛いですぅ……♡」
……いや、待て。
確か本編での灰莫しずの年齢は二十代半ば。
そして金城が中学生の頃からこの家で使用人として働いていた設定のはずだ。
それで「付き合っていた」となると――
どう考えてもアウトだ。
未成年だし、立場的にも完全にアウト。
普通なら一発で犯罪案件である。
だがここは所詮ゲームの中の世界だ。
そこまで深く考える必要もないだろう――そう思った、その瞬間。
彼女が突然、メイド服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと!?何してんだよ!!」
「ええ〜?いつものお坊ちゃまなら鼻血を出して大喜びなさるのに……やはり今日は何だかおかしいですねぇ?」
「そ、そうかなぁ……?」
俺は必死に誤魔化しながら彼女を止める理由を探す。
――そうだ。
「今日から学校だろ!?こんなことしてる場合じゃないよ!」
「あっ!そ、そうでしたぁ!!」
彼女は慌てて手を止めた。
俺はひとまず助かったと、胸を撫で下ろす。
そのまま急いで身支度を整えながら、壁のカレンダーに目をやった。
(今日は平成十五年、一月八日か……)
確か主人公がここに引っ越してくるのは今年の夏休み、そしてこのゲームがエンディングを迎えるのは、八月三十一日だったはずだ。
――それまでに、何としてでも破滅エンドは回避してやる。
そう思いながら俺は玄関を出た。
ふと振り返るとそこには古びてはいるが大きな屋敷が佇んでいる。
(やっぱり金城、金持ちだな……)
そんな感想を胸にしまい込み、俺は学校へと向かった。
だが、この時の俺はまだ気づいていなかった。金城貴は腐ってもイケメンだという事実に。
そして、たとえ中身がモテない弱者男性だったとしても、このルックスでそれなりに優しく女子に接してしまえば。
その結果がどうなるのか。
この時の俺は、まだ気づいていなかった。
――つづく
田舎の島を舞台にしたギャルゲーの悪役令息に転生した俺、破滅エンドを回避するために頑張ってたら主人公がここへ引っ越してくる前に全ヒロインを寝取ってしまった件について 鮫島 鱗 @sharkspeare
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