第3話 周りだけ進む

 12月23日。

 クリスマス・イブの前日。

 世間は祝日ムードだけど、私のスマホは静まり返っている。

 ユウトからのLINEが来ない。

 2日前に送った「24日どうする?」というメッセージに、既読がついたまま放置されている。

 既読無視。

 一番キツイやつだ。

 未読なら「忙しいのかな」って言い訳できるけど、既読がついている以上、読んだ上で無視しているという事実が突き刺さる。

 返信に困ってるの?

 それとも、忘れてる?

 いや、忘れるわけない。

 だって自分から誘ってきたんじゃん。

「飲みに行こうぜ」って。


 スマホを何度も確認する。

 通知ゼロ。

 インスタを見る。

 ユウトのストーリーが更新されている。

『ゼミの飲み会なう』

 ジョッキのスタンプと、男友達数人が映ってる動画。

 ……スマホ触る時間あるじゃん。

 ストーリー上げる暇あるなら、私にスタンプ一つでも返せるじゃん。

 なんで?

 優先順位が低いから?

 それとも、私との約束なんて最初から適当な口約束だったの?

 イライラと不安で、胸が締め付けられる。

 胃酸が上がってくる。

 逆流性食道炎が悪化しそうだ。


 夜10時。

 ようやくLINEが来た。

『わり、明日無理になった』

『ゼミの飲み会入ったわ』

 ……は?

 飲み会?

 クリスマスイブに?

 大学生のゼミが、よりによって24日の夜に飲み会なんてやるか?

 んなわけない。

 教授も学生も、イブはプライベート優先したいだろ普通。

 どう考えても嘘だ。

 あるいは、私との約束を断るための口実だ。

「ゼミ」って言えば私が納得すると思ってるその浅はかさがムカつく。


『そっか、了解〜』

『また今度ね!』

 物分かりのいい女を演じて返信する。

 本当は「嘘つけ」って送りつけたい。

「自分から誘っといて何なの?」って罵倒したい。

 でも、それをしたら今までの関係すら終わってしまう気がして、怖くて言えない。

 これだから「友達以上恋人未満」は厄介なのだ。

 束縛する権利がない。

 文句を言う権利がない。

 ただ、相手の都合のいい時に呼び出され、都合が悪くなったら切り捨てられる。

 スペアタイヤ。

 暇つぶしの道具。

 自分の立ち位置を再確認させられて、惨めになる。


『また埋め合わせするわ!』

 ユウトからのスタンプ。

 土下座してるウサギのやつ。

 軽い。

 謝罪が軽い。

 埋め合わせなんて絶対にないことを、私は経験上知っている。

 このままフェードアウトするパターンだ。

 あるいは、年明けに何食わぬ顔で「あけおめ」って送ってくるパターンだ。

 どっちにしても、私のクリスマスは空白になった。

 真っ白だ。

 予定がないことよりも、ユウトにとって私が「イブを一緒に過ごす相手」ではなかったという事実が、一番こたえる。


 ベッドに潜り込む。

 涙は出ない。

 ただ、心臓の奥が冷たく重い塊になったような感覚だけがある。

「期待させやがって……」

 小さな声で毒づく。

 天井のシミを見つめながら、ユウトのストーリーをもう一度見た。

 楽しそうに笑うユウト。

 私の知らないユウト。

 その笑顔の先に、誰か別の女の子がいるんじゃないかって想像してしまって、私はスマホを放り投げた。

 画面の光が消えると、部屋は本当の闇になった。

 私の恋も、始まる前にこんなふうにプツンと消えてしまうのかな。


(つづく)

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