第10話 すごい最底辺冒険者
朝日が森を照らす。
最底辺パーティは、今日も依頼に向かって歩いていた。
「……今日も全員生きて帰れるか?」
女剣士が笑う。
「生きるための判断なら、心配いらないわ」
盾役も魔術師も、頷く。
そして、俺も静かに息を吐いた。
―――――
今回の依頼は、これまでで最も危険だった。
中規模の魔物討伐。
複雑な地形と、狡猾な敵。
上位パーティでも数人の犠牲は避けられないと予想される。
「……でも、俺たちは違う」
俺の心の中で、静かに決意が生まれる。
勝つためではない。
称えられるためでもない。
生きて帰るために動く。
―――――
森の奥、魔物たちは待ち構えていた。
数は多く、威圧感がある。
女剣士が前に出る。
盾役が防御。
魔術師が魔法で援護。
俺は、全体を見渡す。
危険を察知し、退路を確保する。
倒れた仲間を助け、道を作る。
戦わず、前に出ず、ただ生き延びるために動く。
「撤退!」
合図一つで、パーティは動く。
敵に追われず、混乱せず、無事に出口へ。
―――――
森を抜け、依頼を終えた時、四人は息を切らしながらも笑っていた。
「……やっぱり、あんたはすごいな」
女剣士が言う。
「何がですか?」
俺は照れくさく答える。
「全員を生かす判断を、迷わずできること」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……まだ名前には及ばないけど」
そう言って、剣を鞘に戻す。
―――――
ギルドに戻ると、報告書はこう記されていた。
「討伐成功。死亡者ゼロ。被害最小」
かつては皮肉でしかなかった二つ名が、
少しずつ現実の評価に追いつき始めている。
受付嬢が微笑む。
「本当に、生存率だけは英雄級ね」
俺は静かに頷いた。
自分自身に、少しだけ自信が湧く。
―――――
夜、焚き火を囲むパーティ。
「結局、俺たちは何者なんだろうな」
盾役が呟く。
女剣士が答える。
「すごい最底辺冒険者」
皆が笑う。
「派手じゃない。勝たない。
でも、生きて帰る」
その言葉が、この冒険者たちの強さを表していた。
勝てなくても、英雄級の価値はある。
最弱でも、生き残るだけで、十分すごい。
俺たちは今日も、
笑いながら森を後にする。
“生存率だけは英雄級”
最底辺だけど、世界にとっては、確かに英雄だった。
完
生存率だけは英雄級と呼ばれる最弱冒険者は、今日も誰かを生かして帰る 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123
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