エピローグ

 あの日以来、世界は何も変わっていない。

 あれだけ巨大な存在が飛来し、大音量で曲を流していても、我々しか目撃していなかったのだ。

 それが偶然か、それとも宇宙人の技術によるものかはわからない。

 もちろん報告書は出した。しかし、内容の馬鹿馬鹿しさ故か完全に黙殺されたようだ。


 私は、相変わらず観測室に座っている。しかし、以前ほど未知に対する希望はなくなっていた。

 むしろ、未知というものへの恐怖が強くなってしまったようにも思う。

 それは、宇宙や深海といったわかりやすいものではなく、日常の中に潜む「未知」という存在に対してだ。


 そう、わらべ歌のようなものにすら潜んでいる。

 そして、一度知ってしまったら、もう戻れない。


「♪みっちゃん みちみち――」


 最近、気が付くと口ずさんでいる自分に気が付く。

 私だけじゃない。佐藤部長も、他の三人も……。




 違う。

 何も変わっていないってのは、嘘なんだ。

 最近は、街中でもあの歌が聞こえる気がする。


 私が完全におかしくなってしまったと言うのなら、それでいい。

 でも――


 交差点を渡る人々を見る。

 スーツを着たサラリーマン。

 制服の学生。

 手をつなぐ親子。


 彼らはみんな、ただの「みっちゃん」じゃないのか?

 きっとそうだ。みんなもう「みっちゃん」なんだ。


 書類の署名欄に「みっちゃん」と書いて、私は慌てて訂正した。


 ― 了 ―

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みっちゃん Ash @AshTapir

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